服を用することは、命を守ること。どの服を用するかによって生き方は変えられるー「Sound of IKEBANAのNYファッションウィークの参加報告会」に参加して感じたアートとテクノロジーと産学共同研究の無限の可能性ー
土佐先生のSound of IKEBANAのNYファッションウィークの参加報告会に参加しました。
プロローグ:私が京都の報告会に参加した理由
Sound of IKEBANAは随分前から観察させて頂いているのでファッションウィークに参加する!と聞いてびっくりしたんですね。そして土佐尚子先生から「あなた、9月にトロントいるんでしょ。トロントからニューヨークは1時間よ、見にこない?」とお誘いを頂いていたのです。
確かに私は子供の大学入寮を見届けるため9月にトロントにいました。しかしその時は9月6日に日本帰国予定だったので泣く泣く辞退。2024年の夏に絶対に行こう!と決意を新たにしました。そのためには準備が必要と情報をネットで見ていたら、土佐先生から「報告会を京都で実施します」とのお誘い。NYに比べたら京都は近い!ということで行かせて頂くことにしました。
京都大学での発表会。この大きなスクリーンが研究室そのものにあるというのも魅力的。今回は土佐先生、モデルを務めた京都国際映画祭の中村伊知哉委員長、今回制作や音楽で参加した学生さん、ファイナルのモデルを務めたUtsugi Annlaさんとのお話を交えてのとても興味深い報告会でした。
今回の報告会のアジェンダはこのような感じ。しかしあまりに面白い話に脱線しまくったのでSound of IKEBANAをご存知ない方でも最後まで読み切って頂けるように交通整理しながら今回の報告会を振り返りたいと思います。
(Sound of IKEBANAをご存知の方は3からお読みください)
1:「Sound of IKEBANA」とは何者か
Sound of IKEBANAとは、一言で言えば「表現」です。京都大学防災研究所アートイノベーション産学共同研究部門の代表を務める土佐尚子特定教授が開発されました。
Sound of IKEBANAは実際に目で見ることができません。鮮やかな色彩の液体に人間や人間以外の声やその他の様々音の振動を与えます。この振動によって液体は予想できない色彩と形を表現して飛び上がります。しかしこの状況は人間の目で見ることができません。ハイスピードカメラ2000フレーム/秒の撮影された写真をが「表現芸術」です。その姿が生花に見えたことからSound of IKEBANAが誕生しました。
ここまで聞いて、多くの人が疑問に感じることが出てきます。
防災とアート???。一体どう関係してるの?と思う人も多いでしょう。京都大学防災研究所のサイトで組織を見てみましょう。
アートイノベーション研究領域という部門があります。リンクを確認するとこの様なフレーズが。
そして土佐先生の研究室のサイトに飛んでいきます。防災研究所とアートイノベーションの関係はこの様な仕組みになっているのです。
さて、Sound of IKEBANAとそれを生み出す「京都大学防災研究所アートイノベーション産学共同研究部門」について概要は掴めました。ここで「産学共同研究」についても触れておきたいと思います。
「産学共同研究」とは【民間機関等から研究経費および研究員又は研究経費を受け入れて、大学の教職員、研究室等が当該民間機関等と共同して行う研究】のことをいいます。京都大学には専門ページもあります。
Sound of IKEBANAは2021年より、セイコーエプソン株式会社(以下エプソン)とデジタル捺染技術を融合させて新たなインクジェット技術の価値創造を目指すための産学共同研究を継続実施をしています。(ものすごくシンプルな表現になりますが)「大学の研究室で服を売る」というのはこのような仕組みから生まれたのです。
2:Sound of IKEBANAがNYファッションウィークに辿り着くまで
Sound of IKEBANAに私が出会ったのは2016年。この際にはハイスピードカメラでの撮影対象は液だけではなく液体窒素で凍らせた花等も使われていました。そして映像作品として発表されていたんですね。
実は私、2016年より前から土佐尚子先生の作品はシンガポールで拝見していました。その後、文化交流使のお仕事ではアテンドのお手伝いもさせて頂きました。
プロジェクトは色々な形に発展し、産声でSound of IKEBANAを作るというプロジェクトも始まりました。
Sound of IKEBANAが映像作品だけでなく、そこから動いていく様が見えてきました。そして本帰国した私に土佐先生から「東京でイベントやるからいらっしゃい」と連絡頂きました。
ここでセイコーエプソンさんの技術とSound of IKEBANAが繋がり、ファッションの世界へのアプローチが始まりました。
その後、「Sound of IKEBANAのfashionが 2022年10月にNY Brooklyn Fashion Show Fallに参加する」とのプロジェクトを伺った際はびっくりしてしまいました。
このTシャツ、私も持ってますが本当に着心地がいいんですよ。。このニュースを伺った時も驚きましたが、その後もっと驚く展開が。それがニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)への参加でした!
ー ここからは報告会のレポートがメインです ー
3:Sound of IKEBANAのNYファッションウィーク
2023年9月11日ニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)期間に行われた、世界から参加するデザイナーたちのプラットホーム「グローバルファッションコレクティブ」が開催されました。で、「Sound of IKEBANA」のランウェイはそこで行われました。きっかけはglobalfashioncollectiveからInstagramを見てCurationを受けたとのこと。Instagramすごいなあ。
ちなみに参加候補日は9月10日と9月11日だったそうです。10日は子供服のショーの後、というプログラムだったそうなので11日を希望。同時に9月11日はニューヨークにとっては特別な日であるわけですが、このショーにおいてはその特別感は特に感じなかったそうです。
そして「ランウェイを構成する」という作業は、土佐先生曰く新しい発見だらけだったとのこと。時に「デザイナーがとにかく全てを決めなくてはいけないことがとても大変だった」とのこと。
この全てというのは本当に全て。服、1つ1つの動き、モデルの選択、モデルの着用する靴、髪型、順番。全てをデザイナーが決めるんだそうです。
どうやって決めるか。服に関しては専門のソフトウエアがあってそこで動きを確認した上でデザインを決定していくそうです。そしてリアルな着用モデルのイメージもここで決定するとのこと。
ちなみにこの動画は現在の販売サイトにも掲載されています。
以前、私の子供がまだ幼稚園児だった頃、歌舞伎に興味をもった時期がありました。その際に本を探していたのですが、歌舞伎をよく存じ上げていた先輩方から「小さい子が歌舞伎に興味を持った場合、写真や演者の動画ではなく、浮世絵や絵本やイラスト本を見せなさい。その方が印象が固まらない(俳優の写真や映像だと印象が固まってしまう)ので勿体無いよ」と言われたことを思い出しました。
この着用動画は服のイメージのみを運ぶという重要な役割を担っているのかもしれません。
「ランウェイを実際に歩くモデルは人種の偏りがないように満面なく選ぶ必要がある」そうです。そこで選ばれたモデルの全てをデザイナーが設定するわけです(ほんまに大変。。。)しかし!事前に指定していた靴をモデルが持ってこないとか、モデルそのものが実際に来なかったりすることもあるので(外国あるあるですね)そのようなアクシデントの際にどうするのかも決定しないといけないそうです。(お話を聞くだけでも大変そう。。)
実際のモデルの歩き方も指示しなくてはいけません。今回はSound of IKEBANAの映像をiPadでも持って歩くというコンセプトでした。ランウェイの背景にも映像は出てるのですが、実際にモデルが映像を持って歩くことにこだわったとのこと。しかし、「服のデザインを隠さないで歩いて」という指示が浸透しなかったことは次回の課題とお話しされていました。
今回は24人のモデルでランウェイを構成。デザインされた服の多くは、ジェンダーフリーの服であり、老若男女問わず着用できるデザインだそうです。
そして構成もデザイナーが全て決めます。土佐先生は今回は最後に「モデル達を旗でつなげる」というデザインを行いました。これは世界的な日本のデザイナー、イッセイ・ミヤケさんのショーからインスパイアされたとのこと。
この最後の演出は映像と布のそのものも美しさを再認識することができてとても好評だったそうです。
ショーの全体像はこちらの映像で見ることができます。
今回は土佐先生曰く「今までに載ったことがない様なメディアでの取材がたくさんあった」とのことでした。
NYはさすがファッションも最先端の街。多くのメディアが注目した様です。
4:Sound of IKEBANA に関わる学生さんがとても楽しそうな理由、そして今の大人がやらなきゃいけないこと
今回の参加報告会を拝聴して一番深く感じたのは「みんな楽しそう・・」でした。特に、学生さんたちが本当に楽しんでいる様は本当に良いことだと思いました。昨今日本では「今の若い人に積極性がない」と言われることが多いですが、ここは違う。今回発表会に参加した学生さんたちにも積極性を感じました。
なぜここには積極性があったのか、それは楽しんでる大人を近くで見てるからなのかもしれません。土佐先生の研究室は「土佐先生が一番楽しんでるから」学生さんも皆楽しそうなのかもしれません。
土佐先生は「産学共同研究をよりアクティブに進めて行くことによって研究と経済活動を両立していきたい」と積極的にお話をされていました。アートとテクノロジーを両立していくパワーのあるSound of IKEBANAには無限の可能性を感じました。同時に今の若者に無限の可能性がある場を提供し、そこで切磋琢磨すること。これこそが今、若くない世代が行わなくてはいけないことなのかもしれないと感じました。
Sound of IKEBANAの快進撃は続きます。現在はマンハッタンのチェルシーのLUCKY SELECTISMにショールームが設けられ、今回のショーでドレスが一点ものとして販売されているそうです。
チェルシーといえば、マンハッタンでもとても文化的なエリア。このアートとファッションの融合を具現化したSound of IKEBANAは品質も文化もハイクラスを求めるNYのセレブな方の心に響くのではないでしょうか。
薬を飲むことを日本語で「服用」と言います。服を用いると書いて「服用」。つまり素敵な服を用いることは、肌的にもデザイン的にも着ている人に良き効果を与えてくれるということ、と池坊専好さんとの対談でお話しされたエピソードを紹介してくださいました。(池坊専好さんはSound of IKEBANAの大ファンだそうです。)
ぜひ来年のコレクションを見に行けるように準備しなきゃ!と思っていたら、なんと2024年2月のウインターコレクションに参加予定とのこと。
(私自身が年末に渡加する予定なので)2024年2月は渡米することはちょっと出来なさそう。2024年9月に再び渡加する予定なので2024年9月のサマーコレクションにぜひ伺いたいと思います。