沈む寺
海抜ゼロメートル地帯にある古びたお寺。
住職は悩んでいた。
人口減少に伴い檀家は減り続け、寺を維持することが難しくなっている。
経営状態は沈みっぱなし。
しかも地球温暖化の影響で、海水面は上昇し、寺自体も海の底に沈み始めている。
しかし長年続いたこの寺を、たたむわけにはいかない。
月日は流れた。
檀家も離れてしまい、ついに寺は海に沈んでしまった。
ある日、ふと住職が窓の外を見ると、大小さまざまな魚たちが寺の周囲に集まり、興味深そうに中を覗いている。
住職はひらめいた。
「これもご縁」と考え、魚たちに向かって説法を始めることにしたのだ。
住職の説法は
「水の流れに身を任せ、無駄に逆らわぬこと」
聞き入った魚たちは皆、うなずくようにヒレを揺らし、次第に「檀魚(だんぎょ)」と呼ばれる熱心な信者集団が生まれた。
寺はついに「魚の寺」として名を馳せ、魚たちは日々、寺に集まっては住職の説法を聞き、悟りを聞き、仲間にも教えを広めているという。
文字数:406字
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