まさ せいこう

富士山の麓で創作の森を彷徨うカエル(筆者)。小説・エッセイ・写真などの創作活動をしてい…

まさ せいこう

富士山の麓で創作の森を彷徨うカエル(筆者)。小説・エッセイ・写真などの創作活動をしています。Kindleで6冊の「超ショート・ショート」を出版していますが、更に活動の場を広げ、創作活動をされている方々と繋がりたいと願っています。

最近の記事

キンモクセイ盗賊団の池

今、全宇宙の注目を集めている盗賊団「キンモクセイ」。 彼らのアジトは、とある惑星、地球の密林の奥に存在する池のほとりにあることは知られていない。 この池の周辺には、盗賊団の象徴でもあるキンモクセイの甘い香りが立ち込めている。 実はこの香り、盗賊団の科学者が「キンモクセイの香りが人間の防衛本能を鈍らせる」という特性に気づき、それを応用して作り上げた最強の兵器だった。 盗賊団は、この香りをキンモクセイNo.5と呼び、絶対的な自信と誇りを持っていた。 しかし、ある日、何も知らない子

    • 沈む寺

      海抜ゼロメートル地帯にある古びたお寺。 住職は悩んでいた。 人口減少に伴い檀家は減り続け、寺を維持することが難しくなっている。 経営状態は沈みっぱなし。 しかも地球温暖化の影響で、海水面は上昇し、寺自体も海の底に沈み始めている。 しかし長年続いたこの寺を、たたむわけにはいかない。 月日は流れた。 檀家も離れてしまい、ついに寺は海に沈んでしまった。   ある日、ふと住職が窓の外を見ると、大小さまざまな魚たちが寺の周囲に集まり、興味深そうに中を覗いている。 住職はひらめいた。

      • お姫様ラッコ

        ああ、お食事タイムね。 ほら、飼育員さん、いつもみたいにそっと抱き上げてちょうだい。 お姫様抱っこね。 (飼育員にそっと抱き上げられながら) そうそう、その調子。 国内で私だけが残されたおばあさんラッコだって、知っているでしょう? うん、そうなのよ。 あの愛くるしい仲間たちはみんな旅立ってしまったの。 気づけば私一人。 ラッコの名誉と栄光を背負う存在になっているわけ。 (飼育員は優しく餌を口元に) ふむ、このご飯もなかなか悪くないわ。 昔はここもぎやかだったのよ。 水槽のあっ

        • この中にお殿様はいらっしゃいますか?

          旧型のロボットが、よろよろと動いている。 最終戦争前に作られたその体は、傷つき、あちらこちらが錆びている。 ということは数百年前から、この赤茶けた大地を彷徨い続けているのだ。 ロボットが、ようやく一つのコロニーにたどり着く。 地球上にわずかに残った人間たちが築いた小さな拠点。 そこへ、ロよろよろと入り込み、かつての使命を思い出すかのように周囲を見回し声を上げた。 「この中にお殿様はいらっしゃいますか?」 突然の問いに、人々はしばし沈黙したあとこらえきれず笑い出す。 「お

        キンモクセイ盗賊団の池

          それでも地球は曲がっている & 蕎麦でも気球は浮かんでいる

          二作品、続けて読んでください。 もちろん、それぞれ独立した作品にはなっています。 「それでも地球は曲がっている」 地球上にはまだ科学で説明できないことがたくさんありますよ! 秋空に、風に乗って気球飛んでいる。 ゴール地点に向かって一直線に進んでいる。 乗っているのはSF作家を目指す青年と先輩である科学者だ。 現代の科学じゃまだ証明できないことが沢山あるんです。 とSF作家は息巻いている。 まず、この気球のです。 風に乗って直線に進んでいると感じてますが、実際には歪ん

          それでも地球は曲がっている & 蕎麦でも気球は浮かんでいる

          人生は洗濯の連続

          むかしむかし、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に。 絵本を開きながら、私は母親から聞かされた昔話を、わが子にも読み聞かせていた。 桃太郎である。 私の母親は、祖母から聞かされたという。 祖母はさらにその母から。 そして私の娘も、いつか生まれてくるであろう娘に、絵本を開き同じ話を繰り返すのだろう。 だけど、昔話に出てくるおばあさんたちは、何代にも渡って川で洗濯ばかり。 現代の私たちは、家の中の洗濯機でボタン一つで完

          人生は洗濯の連続

          錬成は電卓の親族

          なんでぇ、今回のお題は「錬成は電卓の親族」だってぇ?  またやっかいなお題を出しやがるじゃねぇか。 おいらにそんなん分るかぁっての。 そんなことより商売商売! 商売ってのは、やらなきゃなんねぇことが山ほどあるんだよ。 金勘定だってきっちりしねぇと、またカミさんにお小言食らっちまう。 え、計算の手が早いってか? そりゃそうさ! 毎日毎日、カミさんに怒られないように必死で鍛えてんだからよ。 俺みたいなバカでも、長年やってりゃこうなるってもんだ。 ほら、暗算で、ちょちょいのちょいよ

          錬成は電卓の親族

          宇宙人ジョーンズのビジネス観察記録「日本の工場長という生き物」

          はじめに私は工場業務の効率化を支援するコンサルタントとして活動していますが、ある日、不思議な出来事が起こりました。 まるで第三者の意識が私の脳内に入り込んできたのです。 その意識の主は、「宇宙人ジョーンズ」と名乗り、遥か遠くの高度文明社会から地球を観察しにやって来たと言います。 ジョーンズは、私が仕事中に突然話しかけ、鋭い指摘や奇妙な質問をぶつけてきます。 そのやり取りが面白すぎて、つい仕事中に笑ってしまうこともあれば、鬱陶しさに頭を抱えることも。 しかし、なぜか

          ¥100〜
          割引あり

          宇宙人ジョーンズのビジネス観察記録「日本の工場長という生き物」

          ¥100〜

          激辛の鏡

          味覚を視覚化する「味覚を映す鏡」は、開発者たちの期待通り、食べる前に味を確かめる安全な方法として注目を集めていた。 酸っぱい梅干しを映せばしっとりとした雨の景色が、苦いコーヒーを映せば深い森の映像が浮かび上がる。 こうして人々は、事前に食べ物の味を見て選ぶことができるようになった。 ある日、レストランのオーナーがその鏡に「激辛カレー」を映してみたところ、鏡が突然、異常な反応を示した。真っ赤なカレーが映った瞬間、鏡の中で小悪魔たちが現れ、激しく踊り狂い始めたのだ。 彼らは笑い

          夜からの手紙

          寝苦しい夏の夜、ヒロシは枕元に見慣れない封筒を見つけた。 差出人は 夜(幽霊代筆) と書かれている。 そこには涼しげな文字でこう書かれていた。 拝啓 ヒロシ様。私は夜の代理を務める幽霊です。貴方が暑さで寝苦しい思いをされているかと思い、涼しさをお届けしようと現れました。私がそばにいるだけでひんやりするはずですから。 その瞬間、ヒロシの部屋にひんやりとした風が流れ、汗ばんでいた肌が少し涼しくなった。助かるよ。 とヒロシは感謝した。 幽霊がほっとしたように微笑んでいる。 と

          インドを編む山荘

          編み物で世界を表現する芸術家として有名な老人のもとに ある日特別な依頼が舞い込んだ インドを編んでほしいという依頼だ デザインは大変細かく 網目単位に指示がなされていた このような依頼は彼にしかできないであろう 高齢である老人は これが最後の仕事に相応しいと感じ引き受けた そして彼は静かな山荘に一人引きこもり 黙々と編み物を続けた サリーの鮮やかさやインドの神秘性を象徴する複雑な柄が 次々と編み込まれていった 老人は知らなかった 依頼主はクーデターを目論む秘密組織 編目の

          インドを編む山荘

          バンドを組む残像

          久し振りに親子三人で囲む週末の食卓 お父さんが娘に 母さんからおまえがバンドを始めたって聞いたぞ 面倒くさそうに頷く娘 お父さんはお構いなしに喋りだす 実は、俺も昔バンドやってたんだよ 娘はまた始まったと思いながらも へぇ とだけ答えた お父さんはすっかり自分の世界に 俺たちのバンド、あの頃はマジですごかったんだ 地元じゃかなり有名でライブはいつも満員 ギターを持ってステージに立つとファンが大騒ぎさ 娘は黙々とご飯を食べている お母さんはなぜかニコニコ聞いている

          バンドを組む残像

          残り物には懺悔がある

          やれやれ 神は、ため息をついて地球を見る かつては美しい青い星だった 今では、その輝きはどこか鈍く曇って見える 急速に文明を進歩させた人類 それはそれで正解だと思う しかし 森は削り取られ、動物たちの嘆きの声が響いている 海も空も大地さえも汚れている 今の地球に残されたものは 環境破壊 何億年もかけて築いた自然を 人間はわずか数世代で破壊した 君たちは自分が何をしているのか分かっているのか? 今、神に聞こえてくるのは SDGsやカーボンニュートラル それは立派な取り組み

          残り物には懺悔がある

          可愛い子には変化をさせよ

          神様は日本の親子を見て嘆いた 子離れできない親 親離れできない子 過保護すぎて、このままじゃ自立できないな 昔はよく 可愛い子には旅をさせよ といったものだが 危ないからやめなさい もしものことがあったらどうするの 親たちは 愛ゆえに子供たちを囲い込み危険から遠ざけている このままで、日本の未来は大丈夫だろうか そして神様は考え決断した そうだ、可愛い子には変化をさせよ! 神様はある日、若者の心にそっと問いかけた 君は本当に今のままでいいのかい? 親の庇護の下で、自由

          可愛い子には変化をさせよ

          「ときめきビザ」

          地球上の争いごとや 憎しみ妬みといった負の感情を 遂に制御される時代が訪れた すべての生き物が穏やかな日々を過ごせるようになり 青い地球は穏やかな表情を取り戻した だが 人間という生き物は ただ穏やかでいるだけでは満足しない 予想外の出来事に対する反応や感情の起伏がなければ 幸福感が得られないのだ どうすればよいのだ 名案を思い付いた ときめきビザ である このビザを持つことで 人間は日常生活において 意図的に感情の高まりを体験できる 特別な瞬間を演出し より豊かな感情体

          「ときめきビザ」

          「ひらめき膝(未知との遭遇)」

          やっちまった 自動車事故 と思ったが 何ともなかった 体にも車にも傷ひとつない 俺は高速道路を走行中 正面から突っ込んできた巨大な光に 避ける間もなく衝突した はずなのに 気づいた時にはパーキングエリアに車を停めていた 何事もなかったように それからだ 俺の体が いや膝が変わったのは 俺は日本人メジャーリーガー 現在 空前絶後の盗塁記録を更新中 投手のモーションを完璧に読み 盗塁を成功させる まさに神がかり的な絶好調 体が 膝が 瞬時にひらめき 反応し 走り出す 突然目覚め

          「ひらめき膝(未知との遭遇)」