接吻代行
さあ、今日もお仕事の時間だ。
僕はこのお仕事が大好きなんだ。
みんな僕を待っていてくれるし、僕だって、みんなの顔を見るたびに、胸がふわっと温かくなるんだな。
「こんにちはー、元気だった?」
僕が入ると、笑顔がパッと広がる。
窓際の女性が目をキラキラさせてる。
そっと膝に乗って、ほっぺたにチュッ。
おや、あの男性が腰をかがめてくれた、ありがとう。
じゃあお返しのチュッ、ちょっとペロンってなっちゃうけどね。
あっちにも、こっちにも、愛想をふりまいて、チュッ、チュッ、チュッ。
みんなの笑顔がどんどん広がっていく。まるでお日さまがいっぱい集まったみたい。
「なかなか会いに来られないから、代わりにたくさんキスをしてあげてくださいね」ってご家族も言うんだ。
僕のキスはペロンってなるけど、心をこめてるんだよ。
あ、自己紹介がまだだったね。
僕は、老人ホームを回るセラピードッグ。
ふわふわの毛並みと大きなハートを持った、ゴールデンレトリーバーなんだよ。
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