バンドを組む残像
久し振りに親子三人で囲む週末の食卓
お父さんが娘に
母さんからおまえがバンドを始めたって聞いたぞ
面倒くさそうに頷く娘
お父さんはお構いなしに喋りだす
実は、俺も昔バンドやってたんだよ
娘はまた始まったと思いながらも
へぇ
とだけ答えた
お父さんはすっかり自分の世界に
俺たちのバンド、あの頃はマジですごかったんだ
地元じゃかなり有名でライブはいつも満員
ギターを持ってステージに立つとファンが大騒ぎさ
娘は黙々とご飯を食べている
お母さんはなぜかニコニコ聞いている
お父さんは気にせず続ける
あの頃の輝きは今でも忘れられないんだ
昔の俺が残像のように見えるんだ
娘は明らかにうんざりして
昔の音楽のバンドじゃなくて、その出っ張ったお腹のバンドをどうにかしたら
と冷たく返す
お父さんは現実に戻り
グビリとビールを飲んだ
その瞬間
プツン
という音が響いた
お父さんのお腹のバンドが突然切れたのだ
娘は笑い出して言った
お父さんの栄光のバンドもお腹のバンドも残像だけが残ったね
文字数:410文字
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