見出し画像

【政経東北】理不尽と向き合った10年―巻頭言2021.3

 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故から丸10年が経過する。県民にとっては容赦なく押し寄せる〝理不尽〟と直面し続けてきた10年だったと言える。

 未曽有の大地震と津波により県内では1606人が命を失った。全半壊となった住宅は約9万8000棟に上った。

 さらに、その後発生した原発事故により、県内に放射性物質が降り注ぎ、最大で約16万人が避難生活を余儀なくされた。

 先祖代々の土地で暮らしてきた農家、マイホームを建てたばかりの家族、自然に魅力を感じ県外から移住してきた高齢者――それぞれの営みは崩され、経済活動はストップし、不動産などの財産、長年築いてきたコミュニティーは失われた。

 避難の長期化は生活再建に向けた気力・体力を奪い、自宅に戻れないストレスは免疫力低下や体調悪化を招いた。2月8日付の河北新報によると、1月末現在の震災関連死は全国3773人で、本県は2318人(61・4%)だった。10年目となる今年度も県内で8件が認定された。原発事故が原因で命を失う人がまだまだいるということだ。子どもたちの甲状腺がんなど、健康への影響も気がかりだ。

 原発事故を起こした東電は「3つの誓い」として、①最後の1人まで賠償貫徹、②迅速かつきめ細やかな賠償の徹底、③和解仲介案の尊重をうたっている。だが、実際にはまだ被害が続いている人の賠償も容赦なく打ち切った。納得できない住民は集団で原子力損害賠償紛争解決センターに和解仲介申し立てを行ったが、東電は同センター和解案の受け入れを拒み、手続きが打ち切られるケースが相次いだ。

 当の東電は公的管理下に置かれ、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を介して賠償支払いを進めるスキームが構築され、賠償負担による破綻を免れた。

 経済再生策としてふくしま産業復興企業立地補助金などの支援策が打ち出され、浜通りでは福島イノベーション・コースト構想が進められているが、新規企業誘致促進の意味合いが強く、既存企業の支援につながっているとは言い難い。復旧工事・除染による建設バブルはすでにピークアウトを迎えた。

 理不尽な災害に対しては「仕方ない」と気持ちを切り替えることが必要なときもあるが、復興が進む中で国や東電、県、市町村による理不尽な扱いを受けた場合は、明確に怒りを示していくべきだ。そうした県民の声を拾い、連帯を広げていくことが、これからの本誌の役割だと考えている。     (志賀)

「BASE」経由の購入なら送料無料対応中↓


いいなと思ったら応援しよう!

月刊 政経東北
よろしければサポートお願いします!!