オバマ夫妻のファースト・ダンスはビヨンセ! バイデン新大統領夫妻はどの曲を選ぶ?/書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』
2021年1月20日。アメリカ大統領就任式が行われます。2020年の大統領選挙は、すったもんだの末に民主党のジョー・バイデン氏の勝利が確定し、第46代アメリカ合衆国大統領となります。就任式、そして同夜に開かれる予定の就任祝賀パーティーで、例年、大統領夫妻(ファースト・カップル)はファーストダンスを披露します。選ばれる歌には重要なメッセージが……?
――バラク・オバマ元大統領は先日(2020年11月17日)、自身の著書『A Promised Land』の発売に合わせて、大統領執務時代に愛聴していたというプレイリストを発表。その中に、ビヨンセ「アット・ラスト(At Last)」が挙げられていました。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』(藤田正著)でも、この曲には特に注目して書きましたね。
藤田正さん(以下、藤田) オバマ夫妻はこの歌に特別の思いがあるみたいです。ともに自著のなかで取り上げています。「アット・ラスト」はシカゴ・ソウルの代表的シンガーの一人だったエタ・ジェイムズ(Etta James)がヒットさせたカバー曲。同名のアルバム『at last!』が1960年に出て、61年にこのシングル盤が話題になった。もともとは1940年代の、スウィング・ジャズのグレン・ミラー楽団によるミュージカル映画の1曲ですが、エタ・ジェイムズが取り上げたことで意味合いが変わりました。簡単に言えばブラック・ミュージックになったということかな。シカゴはオバマ夫婦の拠点。さらに奥さんのミシェルさんは、まさにシカゴ・ブルース&ソウルを生んだ地域の、労働者階級の黒人家庭に生まれた努力家であり秀才です。彼女がこの地元の名曲を知らないわけがない。
Etta James「At Last」
――シカゴという地元の歌ということで夫妻が好きだったのでしょうか?
藤田 それだけじゃないんだよね。エタ・ジェイムズは決して幸せな人生を送った女性じゃなかった。父親はギャンブラーの非情な白人。彼女の肌がライト・ブラックなのもその影響でしょう。「ついに私は!」とうたう「アット・ラスト」は、様々な苦難を超えてある地位なり、ある高い意識に到達せんとする人の思いが盛り込まれている。音楽が傍にあることによってハードな大統領職を乗り越えられたと明言しているバラク・オバマ氏にとっても、「アット・ラスト」は黒人としてさんざんに差別され続けた彼自身の、そして夫妻のキーワードでもあるわけです。だから第1期大統領就任式典の夜に、この歌で夫妻は「ファースト・ダンス」を踊った。歌を担当したのがビヨンセだったよね。こういった人間関係に「おお!」とピンと来るべきでしょう。ブラック・ライヴズ・マターのエッセンスが隠されているんですよ。
聴き比べよう!
2009年 オバマ大統領就任披露パーティー、隣人舞踏会で「At Last」を披露するビヨンセ
――その就任式の当日ですが、ソウルの女王、アレサ・フランクリンも歌を披露していますね。
藤田 そうなんです。アレサからビヨンセへ。それが黒人初となる大統領就任式典の1日だった。黒人文化の画期なんだけど、そこに本書は触れています。おそらくこれ、だれも書いていないと思うよ。で、少し話を戻して、エタ・ジェイムズのアルバム『at last!』のジャケット写真に触れたいんだけど。
――本書252ページにある、彼女の横顔の写真ですね(※1番目のYouTube内の画像も同じ)。
藤田 そう。ぼっちゃりして可愛いエタ・ジェイムズだけど、一見、彼女が黒人だってわからないよね。わからないように撮影されている。アメリカ音楽業界で、歌をうたっているのが黒人であることを隠されることは、ナット・キング・コールのような例外を除いて、ある時代までは珍しくなかった。『at last!』のジャケット写真にもその影響がある。これを眺めているだけでも、彼ら彼女たちの長い闘いの歴史が見えるわけです。
――最近、また「アット・ラスト」が歌われているシーンに遭遇したとか?
藤田 今や「アット・ラスト」が準ゴスペルになっていることですね。これにはちょっと驚いたけど、予想は当たっていたようですね。ネットフリックスの最新シリーズの一つ『ヴォイス・オブ・ファイア~調和の歌声』(2020年、1シーズン)がそれです。これは、エゼキエル・ウィリアムズ司教が、彼の甥っ子である、「ハッピー」というモンスター・ヒットを放ったファレル・ウィリアムズと一緒になってゴスペルの合唱団を作るまでの感動的なドキュメント。黒人だけじゃなく、いろいろな人たちがオーディションを受けるんだけど、初っ端から「アット・ラスト」がうたわれる。「アット・ラスト」って、サム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」と同じように、マイノリティの解放歌になりつつあるんだね。さらにファレルの役割だけど、これは、また機会を改めて語りましょう。
Netflix オリジナルシリーズ『Voices of Fire』Official Trailer
さまざまなバックグラウンドをもつ人々が合唱団のメンバー目指して、オーディションに参加。歌という武器で自らを高め、ひとつのチームとなっていく。必見です!!!