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(浅井茂利著作集)外国人材受け入れの新たな枠組みについて

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1629(2018年8月25日)掲載
金属労協政策企画局主査 浅井茂利

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 2018年の骨太方針では、「新たな外国人材の受入れ」が盛り込まれ、「一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格の創設」が打ち出されています。
 外国人労働者の就労に関しては、賃金・労働諸条件の低さ、悪質な人権侵害、受け入れ企業による不正行為、死亡や労働災害の多さ、失踪といった、放置することのできない重大な問題が山積しています。2017年11月には、外国人技能実習制度について、受け入れ枠の拡大、受け入れ期間の延長とあわせ、制度の適正化に向けた諸施策が施行されたばかりですが、受け入れ拡大の影響や適正化に向けた効果が明らかとなる前に、新たな在留資格の創設を行うのは、あまりにも性急と言わなくてはなりません。これらの影響や効果を見極めながら、国民的議論を重ねていく必要があります。

外国人労働者の状況

 厚生労働省の発表によれば、2017年10月末時点の外国人労働者数は1,278,670名、うち外国人技能実習生の数は、前年比22.1%増の257,788名に達しています。
 都道府県別に見ると、愛知県28,335名、広島県13,602名、大阪府13,028名、東京都11,900名、茨城県11,358名、岐阜県10,547名などとなっていますが、前年比伸び率では、沖縄県の75.7%増、福岡県の47.8%増、鹿児島県の38.2%増、宮崎県の37.4%増などがとくに目立つところとなっています。
 労働災害だけでなく、交通事故や溺死なども含めた外国人技能実習生の死亡者数は、2016年度に29名となりました。2011年度、12年度には20名程度に減少していましたが、その後再び拡大し、3年連続で30名前後の水準となっています。
 2017年の失踪者数は7,089名で前年比1.4倍と激増しています。送り出し国別では、ベトナム3,751名、中国1,594名がとくに多くなっており、増加率では、カンボジア2.3倍、ミャンマー2.1倍、ベトナム1.9倍が目立つところとなっています。
 受け入れ機関による不正行為は、2017年に213機関(企業単独型3、監理団体27、実習実施機関183)となっており、前年よりも10%あまり減少し、2013年以降では最も少なくなっています。
 しかしながら中身を見ると、賃金等の不払いは139件で前年(121件)より増加しており、労働関係法令違反も24件で前年の13件から激増しています。「暴行・脅迫・監禁」はゼロたったのが、4件発生しました。減少しているのは、技能実習計画との齟齬(38件 → 10件)、名義貸し(51件 → 10件)、偽変造文書等の行使・提供(94件 → 73件)などとなっています。
 これとは別に、厚生労働省では、実習実施者に対する監督指導、送検の状況について発表していますが、2017年には、5,966件の監督指導を実施、そのうち70.8%にあたる4,226件(前年比5.5%増)で、労働基準関係法令違反が認められました。違反事項としては、労働時間が1,566件、安全基準が1,176件、割増賃金の支払い945件などとなっています。
 受け入れ人数枠の拡大、受け入れ期間の延長が認められる「優良な実習実施者・監理団体」の認定をめざし、体裁を整えつつあるものの、賃金・労働諸条件面での適正化は遅れている、という傾向にあることが推測されます。

骨太方針の内容

 こうした中で2018年6月15日に閣議決定された骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2018)では、「新たな外国人材の受入れ」として、「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する」ことが盛り込まれました。そしてその方策のひとつとして、「真に必要な分野に着目し、移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大するため、新たな在留資格を創設する」ことが打ち出されています。
 具体的には、
*生産性向上や国内人材確保のための取り組み(女性・高齢者の就業促進、人手不足を踏まえた処遇の改善など)を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受け入れが必要な業種について、法務省などと業種の所管省庁が業種別の受け入れ方針を決定し、これに基づき外国人材を受け入れる。
*在留資格取得に際し、受け入れ業種で適切に働くために必要な知識及び技能について、試験などによって確認する。日本語能力試験により、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有することを確認することを基本とし、業種ごとに業務上必要な日本語能力水準を考慮して定める。技能実習(3年)を修了した者は、上記試験を免除する。
*外国人材から保証金を徴収するなど悪質な紹介業者の介在を防止するための方策を講じる。国外において受け入れ制度の周知や広報、外国における日本語教育の充実、政府レベルでの申し入れなどを実施する。
*他の就労目的の在留資格と同様、日本人との同等以上の報酬の確保などを確認する。きめ細かく、機能的な在留管理、雇用管理を実施する入国管理局の体制を充実・強化する。
*移民政策とは異なるものであり、在留期間の上限を通算で5年とし、家族の帯同は基本的に認めない。ただし、新たな在留資格による滞在中に一定の試験に合格するなどより高い専門性を有すると認められた者については、現行の専門的・技術的分野における在留資格への移行を認め、在留期間の上限を付さず、家族帯同を認める。
などとなっています。安倍総理は、2019年4月の導入をめざしており、新聞報道によれば、2025年までに50万人超の就業を見込んでいるとのことです。                                 
 技能実習の新制度により、失踪や不正行為がどうなるか、検証が先である
外国人技能実習制度については、2017年11月から新制度が導入され、技能実習生の受け入れ期間の延長(最長3年間 → 5年間)および、受け入れ人数枠の拡大(2倍程度)が行われました。こうした拡大や延長は、技能の習得実績や待遇などを点数化し、一定の点数を獲得した「優良な実習実施者・監理団体」でのみ認められることになっているので、これをインセンティブとした適正な実習実施が望まれるところですが、新制度が始まってまだ1年もたっていないのですから、状況はまったくわかりません。また前回2010年の改正によって、死亡、失際や不正行為はいったん改善したものの、再び悪化傾向となったことを考えれば、中長期スパンで判断していく必要があります。新制度の影響や効果の検証なしに新たな在留資格を設けるのは、いかにも性急であり、拙速との批判を免れないと思います。
 韓国では、わが国の技能実習制度と同様の制度を持っていましたが、約3割が失踪する状況や、著しい人権侵害などのためこれを廃止し、現在は「雇用許可制」を導入しています。技能実習制度との大きな違いは、送り出し機関も、韓国国内で企業に外国人材を紹介する機関も、公的機関であるということだと思います。これによって人権問題が解消したわけではありませんが、わが国の技能実習制度では、たとえば海外の送り出し機関が実習生に過剰な手数料や保証金の支払いを求め、契約を履行できない場合に罰金を科しているような場合でも、送り出し機関の処分は現地の政府に任せざるを得ません。そうであれば、こうした違法行為を防止するためには、やはり公的機関に委ねる以外にないのではないでしょうか。

人手不足ではあるが、GDPギャップは大きくない

 骨太方針では、新たな外国人材の受け入れの理由として、「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている」ことをあげていますが、実際のGDPが、潜在GDPを上回っている度合いを示すGDPギャップは、内閣府の算出したデータによれば、2017年1~3月期にプラスに転じたばかりです。しかも2017年後半には0.7%まで拡大しましたが、2018年1~3月期には0.3%に低下しています。日本全体の供給力に比べ、需要がそんなに大きいわけではありません。
 また、有効求人倍率を見ると、2018年5月には1.60倍に達し、1974年1月以来の高水準となっていますが、このうち正社員は1.10倍に止まっています。(正社員の数値は過去最高ではあるが、2004年以降のデータしかない)
 一方、2017年3月の高校卒業者の就職状況を見ると、求人数が38.7万人、就職者数は17.3万人で、充足率は44.7%、求める人材の半分以下しか採用できていないことになります。企業規模1,000人以上の大手では、求人数を上回る採用を行っていますが、29人以下の企業では充足率は21.0%、30~99人の企業でも32.2%に止まっています。
 これらの状況から推測されるのは、
①人手不足は、雇用のミスマッチによるところが大きい。
②非正規労働者のほうが、より人手不足感が強い。
③中小・零細企業では、将来の中核人材が採用できなくなってきている。
ということなのではないかと思います。

新しい在留資格で人手不足への対処が可能なのか

 提案されている新たな在留資格では①、②には対処することができますが、5年間の期限つきですから、③に対処することは、基本的にはできません。また①についても、人手不足の業種に外国人材を当てはめるだけでは、人手不足解消にはなっても、ミスマッチを解消するわけではないと思います。「生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受入れが必要」な業種に限定することになっていますが、これは裏返せば、抜本的な事業構造改革は想定していないし、国内人材が確保できるほどには、賃金・労働諸条件が引き上げられることはない、ということを意味しているにすぎません。産業平均に比べ人手不足の状況を反映した高い賃金水準、高い賃金引き上げなどは、最低限必要だと思いますが、たとえば、特定の産業や職種に対する法定最低賃金である特定最低賃金などの制度を活用していくことなしに、これが実現できるとは思えません。

これまでより不正が起こりにくい、人権が確保できる制度構築が絶対条件

 長期的な生産年齢人口の減少という背景はあるものの、第4次産業革命による急速な生産性向上や大幅な職務の変化も予測される中で、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年以降の労働力需給については、慎重に判断すべきだと思います。
 外国人労働者の大規模な受け入れ拡大については、国内労働市場はもとより、国民生活全般に対する広範な影響が不可避であり、十分慎重に対応し、国民的議論を重ねることが必要です。いったん実施すれば、引き返すことは困難ですから、国民の判断も求めるべきです。
 外国人技能実習制度について、アメリカ政府などから強制労働と指摘されている中で、当面、2017年11月に施行された新しい技能実習制度の影響と効果の見極めに努め、その上で、外国人労働者受け入れの新しい制度を構築する場合には、これまでよりも、死亡、失踪、労災、送り出し機関や受け入れ企業による不正行為などが起こりにくい仕組みづくり、家族帯同を含めた人権の確保が絶対条件です。決して、外国人労働者受け入れビジネスの拡大が優先されてほならないと思います。

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