刃物研ぎから始める錫師のしごと ~ 刃づくり
前回「刃物研ぎから始める錫師のしごと~基礎」編でご紹介した、「轆轤(ろくろ)と鉋(かんな)」を用いて器物を削り出し成形することは、土や砂を用いた型に溶かした素材を流し込み形づくる「鋳(い)もの」、金鎚や木槌を用い叩いてつくる「打ちもの」に対して、「挽(ひ)きもの」と呼んでいます。
今回は、前回に引き続き「挽きもの」で用いる「かんな」をご紹介します。すでに、一つの器物を作るにあたり、たくさんのかんなを用意せねばならないお話をしました。
かんなの作り方
比較的柔らかい金属素材「錫」を削るとはいえ、そこそこの硬さを必要としますので、かんなは硬い鉄「鋼(はがね)」を用いて作られます。現在かんなは、鋼加工の専門工である刃物鍛冶さんに素地製作をお願いしています。
”まち”と呼んでいる刃の大きさ、柄元の長さや形状を指定してお願いすると、ほぼその形に仕上げてくださいます。
刃のかたちをつくる
前回の基礎編でもご紹介した、いくつもの”かんな”の使い分けについて。まずは、これから新しく作ろうとする器物の「断面図」を用意します。
仮に、口穴の空いた球を作るとすると、下の図のようになります。球の外側は自由にかんなの刃が行き来出来ますから、ほぼ平らな刃のかんな一本で削り出すことが出来ます。
ここで、難しいのは、内側。球の内側を削り出すために、小さな口から入る大きさの刃をもち、底まで届く長さがあり、内側のカーブに沿った刃の形が必要になります。刃物鍛冶さんに鍛えていただいた素地を、求めるカーブに沿って、高速で回転する砥石「グラインダー」と使って削り出してゆきます。
”にげ”をつくる
近代の旋盤などの工作機械も同じですが、なに(どんな素材)を削るか、どこを削るかによって刃の角度のつけかたは大きく変わります。あと職方の好みの味付けもあり、これが正解という刃はありません。錫師の仕事においては、素材が非常に柔らかく粘り気があるということから、逃げ角、通称”にげ”と呼ばれる、器物に接する刃の角度が非常に重要です。
この”にげ”を作るのには、こちらも「グラインダー」を用いて粗削りをしたあと、およそ4種の砥石を使ってすこしずつ刃の角度を調整してゆきます。
砥ぐ、ひたすら砥ぐ
あとはひたすら砥石に向かい、砥ぐだけです。
だけ、と言いましたが、実はここからが見せどころ。
次回は、刃物の実際の砥ぎ方についてご紹介します。
一般に、職工はみな自分の手で刃物を研ぎます。料理人の包丁、大工のかんな、床屋のかみそりなどなど挙げればきりがありません。刃物の切れ味は、仕事の善し悪しを決める大切な要素です。逆に言えば、刃物をみればその職工の「腕」が一目で判るものです。(つづく)
手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。