枝先の柿/職工を目指すために ~ その2
日ごろ職場のスタッフにも勧めているのが、就業後の自己研鑽や創作活動です。私の職場にも正社員だけでなくパート・アルバイトや研修生など様々な立場の人がいますが、中でも正社員については定時の終業時間以降や休みの日を利用して、公募展に出展する作品を作ったり技能向上を目的とした練習を奨励しています。シリーズその1で書いた通り、スポーツと同じく練習を続けないと間違いなく力は低下します。”続けること”かつ”負荷をかけてやること”が大事なので、中でもとくに公募展への出品は最も効果の高い研鑽といえるでしょう。
若い人たちからよく耳にする言葉の一つに「好きなことをやっていくだけでは生活が出来ない、食べていけない」というものがあります。例えば金工が好きになり大学・大学院まで進んだものの、卒業後の進路に迷い金工を続けてゆくことを諦めざるをえならなくなった人、すごく多いです。口をそろえておっしゃるのが、先の「食べてゆけない」お話でした。
工芸に携わるということ
私の住む工芸の世界を例えて、よくスポーツや芸能の話を持ち出して説明しています。例えば「金づちを使って金属を叩く”鍛金”が大好き」を「エレキギターをプレイするが大好き」に置き換えて考えてみましょう。
ギターが大好きでもいろいろな方がいらっしゃるとしても、進路に悩むくらいなのでよほどギターのことが好きなのでしょう。単に趣味として弾くだけでなく、ギタリスト、ミュージシャンとして生きてゆくことをお考えのこと。さて、どんな生き方があるでしょう。
生き方をイメージする
あなたはギター好きが高じて面接、試験を経て楽器関連の六弦琴株式会社(仮称)に就職しました。およそ半年にわたる研修期間では新人向けのセミナーでは社会人としてのこころがまえ、マナーなどを学ぶとともにこの会社の理念を叩きこまれます。朝9時に出勤、お昼休み1時間をはさんで夕方7時に退勤。勤務時間中は与えられた指示にしたがってギターをずっと弾くことになります。たまに出張があり、地方で弾くこともしばしば。就職して数年たてばギター弾き語り部の係長に昇進。
なんてことは現実にはなかなかないですよね。ギタリスト、ミュージシャンの生き方ってこんなはずがありません。何が言いたいかというと、ギタリスト、ミュージシャンとは、”職業”ではないんです。こう考えると、先の「好きなことをやっていくだけでは生活が出来ない、食べていけない」というお話、おかしく感じてきませんか。確かに就職となると仕事と給与、好きなものに関われる環境は与えられますが、果たしてこの”職業”を望んでいたのでしょうか。なので職業という考え方からいったん離れた方がよさそうです。
でも、出来ることなら、職業を選ぶ際にはギタリスト・ミュージシャンとしての生き方が尊重される職場がいいですよね。
生き方、あり方はいろいろ
ギタリストとして、ボーカリストとして、作曲者として常に第一線で活躍し続けているエリック・クラプトン。常にブルースと共にあり、ブルースを奏で続けています。華々しいキャリアの陰には、音楽を続ける上でのストレスに加え、相次ぐ親友の死や息子の死、親友の奥様への恋、アルコール依存など、深い人生の苦悩がつづられています。
一方、今回のシリーズのタイトルにも付けた職工(技能者)としての生き方はそれとはまた少し違うレベルのものをイメージしています。というのも、クラプトンは世界の頂点に立つ大スターですから、たかだかキャリア5年前後の学生に当てはまるものではないと思います。(つづく)
手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。