すずのきらめき ~ へら
「研磨(けんま)」についてお話します。金属素材は他の土や木とはちがって、光のエネルギーを跳ね返し光り輝く性質をもっています。たいがいの金属は、磨けば磨くほど輝きを増してゆきます。
私は子どもの頃、拾ってきた空き瓶のかけらをはじめて研磨したことを覚えています。そら豆ほどの大きさのガラス片を、サンドペーパーをつかって荒いものから細かいものへ、順に丁寧に砥いでゆきます。コンクリート表面を使って粗削りをしたのち、たしか400番くらいのサンドペーパーで擦ったような。最初のうちは表面がざらざらで、白っぽい荒いものでした。理科まんがを参考にしながら、ペーパーの目の細かさを順に細かくしてゆき、最後は2000番くらいでみがいたように思います。作業はともかく、磨かれたガラス片はピカピカになりました。
金属の表面を磨く工法にもいくつかの種類がありますが、上記の研磨法はとくによく用いられています。丁寧に磨けば、鏡のような光沢を生み出すことが出来ます。とくに「銀」は、他素材では出せない心奪われるかような深くするどい光をはなちます。
さて、今回は研磨の中でも珍しい部類に入るのではと思う、「へら」がけをご紹介します。比較的やわらかい金属素材の、銀、錫でよく用いられる工法です。えんぴつ大の大きさの、「へら」という道具を用います。
へらがけ
どうして「へら」という名前が付いたのかは定かではありません。へらは、鋼(はがね)をよく研ぎ磨き上げつくります。砥石やサンドペーパー、研磨剤を用いて、ピカピカになるまで研ぎ上げます。指輪等を製作するための宝飾専用工具店で、完成品も販売されています。ただし市販品はそこそこ高価ですので、わたしの工房では自作したものも多く使っています。
へらがけはいたってシンプルで、ざらざらした表面を丁寧に押しつぶし平らにしてゆく作業です。光沢のない荒れた肌というのは、下の図のように細かい起伏があり、光が乱反射している状態です。
この荒れた肌に、丸みを帯びたピカピカに研ぎ上げられたへらを何度も力づよく押し当てることで、軟らかい金属が押しつぶされて平らになってゆきます。
仮にサンドペーパー#400で細かいキズをつけた錫板を磨いてみましょう。
*動画の貼り付け方が判らなかったので、GIFにしてみました。
へらで押し撫でたところが、どんどんと光沢をつくってゆくのが判るかと思います。
ただし、このへらがけにも長所と短所があります。比較的難易度が低く時間もあまりかからない反面、銀や錫といった軟らかい金属にしか使えないこと、ちいさな起伏・キズを平らにすることは出来ますが、広い面積、大きな起伏・キズに用いることは出来ません。また精度が求められる平面の加工も出来ません。
ちょっとした裏技
へらをつくるにもそこそこ手間がかかります。なので、身の回りのものを使って磨くこともしています。
下の写真は、百円均一ショップで買ってきたスプーン。ステンレス製。3本で100円でした。スプーンの「腹」と「柄」のもつゆるやかなカーブが使いやすい代物。
知恵をはたらかせて、身の回りにあるものをうまく工夫し利用するのもプロの技だと考えています。
手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。