刃物研ぎから始める錫師のしごと ~ 研ぎ実践
今回は、実際に”かんな”をはじめとした刃物を研ぐ作業に入ります。
私が研磨に用いる砥石は、主に5種類。砥石と簡単にいえども、ピンからキリまで様々なものが市販されています。私が日ごろ使っているのは、荒物屋さんやホームセンターでも手に入る、比較的安価なものです。
砥石について
なにしろ砥ぐ物量がはんぱなく多く砥石の摩耗が激しいため、良質の砥石を大切に使うよりも、安価なものをたくさん使うようにしています。愛用しているブランドは「キング砥石」。
下の写真は、荒いもの(#200~#300)から細かいもの(#1000~#2000)へ順にご紹介しています。一本1000円~2000円で手に入るもの。砥石は、
・硬さ ー 柔らかさ
・目の粗さ - 細かさ
・強さ - 弱さ(どれだけ削る力があるか)
・水や油を吸いやすいか
などによって、好みのものを使い分けるのが良いと思います。ご家庭で包丁を研がれる際は、このうち中目・細目の二種で十分まにあうと思います。
下に敷いている穴のあいたマットは、これもホームセンターで手に入る、すべり止めマットです。水に濡らしながら作業するので、排水性に優れてい便利なおすすめの品。
砥石の整備
なるべく端から端まで、まんべんなく砥石の面を活用して砥ぐのですが、どうしても中心部が減りやすいです。なので、毎日砥ぐ作業に入る前に、砥石の状態をチェックします。
まずは、砥石の面が平らかどうかを調べます。前回の「刃づくり」編でご紹介した刃の構造の重要な箇所、「すくい面」をまずは作ら(砥が)ねばなりません。このすくい面は、刃の中でもよく摩耗する箇所でもあります。
砥石が真っ平らになっているか、砥石を二つ重ね合わせてみましょう。上の写真の様に、重ね合わせたときに中心部に「隙間」が見えるのが判りますでしょうか。これが、砥石を使っているうちに砥石が削られ出来る「減り」になります。砥石の砥面が湾曲していると、真っ平らなすくい面を作ることが出来ません。そんなときは、砥石自体を研いでみましょう。
砥石の面と面を重ねあわせ、上下左右に擦りまわしましょう。この時に、水道水で流しながら擦りだすと良いでしょう。砥面が平らになれば、研ぎの準備完了です。
研ぐときの大事なポイント
上の写真では、かんなの柄元を右手にもち、刃の表を左手で支えています。
前後に大きく動かして砥ぐわけですが、柄を動かす右手よりも、刃本体を支える左手の方が重要だと考えます。
下の図では、平らな砥石に刃物をぴったりあてがい、上から力強く押さえています。この左手の支え押さえる力が、かんなの基本的な出来栄え(すくい面の出来)を左右しています。押さえる力が弱いと平面が出ずに丸みを帯びた刃になってしまいます。
にげも同じように、角度をしっかり固定し、砥ぐ面を砥石から離れないよう適度な力で押さえて研ぎます。
前述のように、砥ぎ方に正解があるわけでなく、職方それぞれの好みもあります。何度も何度も繰り返して、自分の好みにあった砥ぎ方を見つけ出します。
刃物の話題は一旦これで区切りをつけて、次回は別の道具をご紹介しましょう。
手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。