短歌人 2019年4月号 会員2欄
こんにちは、短歌人の太田青磁です。今月の短歌人の誌面から、心に残った歌を紹介します。
五杯目のコーヒーの夜 カフェインはいつしか私の葉脈となる/千葉みずほ
カフェインが全身のなかを徐々に伝わっていき、手の甲のあたりに見えない葉脈のように溜まっていく姿が浮かぶ。見えないものの感覚が、実際はともかくそこにあるのだという体感として感じられる。
人が来ない静かな場所で電話したい人の集まってくる踊り場/相田奈緒
状況だけを見れば初句でも切れる。が、静かな場所に掛かる。三句でも主体の願望だけならばここで切れる。だが、すべてが踊り場に掛かり、主体と同じ気持ちの人が集まってくる不思議な光景を感じたい。
たいへんな拍手たいへんな拍手だ耳を円いテーブルにつける/国東杏蜜
たいへんな拍手のリフレインはインパクトがある。これをどういう思いで捉えるか。下句はややリズムが揺れるが、一見意味の無い行為に自分を守るための、今取り得る最適な行為を選んだ気がして切なさを感じる。
アルファ米一緒に戻した中三の子は看護婦になりて働く/高橋小径
前後から震災詠だとわかるが、過去の回想と現在の事実をことさら特別な言葉を選ぶことなく、時間の流れを確実に伝えてくれる。看護師を選んだ経緯などより、作者の見つめる視線の優しさに心を打たれる。
川底に投げ捨てられた自転車の草繁らせて島になるまで/佐藤ゆうこ
時間軸のダイナミックな一首である。事故なのか不法投棄なのかはともかく、川底という新たな場所を得た自転車が、年々草を繁らせ、島になるという成長をどこかで見守り続けていたのであろう。