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君は僕を退屈させている 《詩》

「君は僕を退屈させている」

23時に電話のベルが鳴った 

以前に耳にした事のある声だった

彼女は何処までも正しく
僕は何処までも間違っている

それだけの事だ 

そうだろう君の言いたい事は

今更 何だって言うんだ


僕は長編小説によくある

登場人物が本の冒頭に
記載されているページを見ている

小説に誰かの名前が出てくる度に
冒頭のページをめくり

主人公との関係性を理解し
頭の中に落とし込む

その小説は僕にとって
酷い物語だった

アルコールに似た恋とキスの魔法
とかなんとか…

型通りの魅力を振り撒く女の
哀れな話しだ

無慈悲で無軌道な光 死んじまえ

犬の嘔吐物と何ら変わりはない

どうせ主人公は君なんだろう

聞いた事のある男達の名前が
登場人物欄に箇条書きにされていた

其処に僕の名前は無い


そろそろ電話を切るよ

僕はそう彼女に言った

君は僕を退屈させている

そして僕も君を退屈させている

僅かに暮れ残っていた夕闇は
淡い夜霧の奥に消えていく

硝子に似た花が透き通り
氷の様に溶け落ちる

今夜もまた電話のベルが鳴っている

何も聞こえないよ

僕は眠りの深い方なんだ

手に持ったグラスの中の氷は
溶けていた

物事を
ややこしくするつもりは無いんだ

僕はそう鳴り続ける電話に呟いた

いったい何度さよならを言えば
気が済むんだ

そして今夜も23時にベルが鳴る

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