知らない女 第二章 《小説》
知らない女 第二章
知らない女との生活が始まった
結局 女は実家に帰らず街に留まる事になった
女の名前は 美鈴
金子みすゞの詩集を僕に見せながら
微笑んだ
本当の名前じゃないかもしれないが
僕にとってはどっちでも良い事で
ただ金子みすゞの詩
僕はどれも好きだった
僕は永遠にその女の事を美鈴と呼んだ
美鈴は風俗の仕事を辞めた事もあり収入も減った
歓楽街近くのマンションを引き払い
市内から離れた海沿いの街にアパートを借りた
朝早くからコンビニなどのお弁当を作る工場のラインで働いていた
白衣の様な服にマスクに帽子に手袋
華やかさとは かけ離れた姿ではあったが
自分の顔がわからないから丁度いいよ
そう言って明るく話してた
僕は相変わらず売れない物書きを続けていた
とあるクライアントから退廃的な物語をと
依頼されていた事もあり
第三次世界大戦のシナリオを書いていた
お金も無い生活だったけど苦しいとか悲しいとかそんな感情は無く
穏やかな時は流れていた
夕暮れの海
沈んでく太陽が海面に
カキイカダの影を作る
オレンジ色に染まっていく
世界だけがあった
残り少ないショートホープを
ふたりで吸った
短い幸せだと
僕等は気づいてはいなかった
続 知らない女 第二章
少し前から美鈴の様子が変な事に気が付いた
仕事の方も折り合いが悪く辞めたって言っていた
時々 夜に外出する事もある
僕がどうしたの?
そう聞くと友達の仕事を手伝っている
そう答えるだけだ
それから数日後
美鈴は顔に殴られた様なアザを付けて帰って来た
何があった どうした?
そう聞く僕に美鈴は泣きながら全てを話してくれた
美鈴が風俗で働いてた事を聞きつけた会社の上司に脅されてる
そう言う話だった
誰にも内緒にしてやる
その変わりに美鈴は
奴の性欲処理の玩具として扱わらていた
もう嫌だ辞めてくださいとお願いしたが
どうなっても良いんだな
そう吐き捨てられ
何度も殴られ犯された
奴の奴隷として生かされていた
仕事を辞めてからも変わらず
奴の要求は続いている
僕は心の中で何かが壊れて行くのを感じた
僕は美鈴に何ひとつ声をかける事が出来なかった
私があんな仕事してたから
私が怖くて言う事聞いたから
私しが…私しが
そう言って家を飛び出して行った
僕は追いかける事すら出来なかった
その夜から美鈴は
姿を消した
僕の前から
この腐った世界から
永遠に姿を消した
八月の暑い午後だった
僕は長めの包丁を握り締め
奴の会社事務所のドアを蹴り破った
我慢ならねえ
何度もそう呟きながら
奴の腹を抉った
奴の薄汚い返り血が
僕の服に腕に手に飛び散る
腹押さえて苦しむ奴の服で返り血を拭った
奴を見下ろしながら
ショートホープに火を付け
ゆっくりと吸い込んで吐き出した
何か大きな仕事を成し終えた様な達成感だけが僕を包んだ
遠くからサイレンの音が近づいて来るのが聞こえた
Photo : Free Pic