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十字路 《詩》

「十字路」

さよなら 手紙なんて要らないよ

君の新しい名前なんて
知りたくも無い

わかったよ もうわかったから

ただの興味本位で僕に
あれこれ聞いて来るのはやめてくれ

だいたい君達には何の関係も無い
話しだろう

頼むから 黙ってくれないか

右に曲がるの それとも左に
曲がればいいの? 

どっちだい 
ねぇ 右か左か どっちなんだい?

僕はそう訊いた

左よ そう彼女は言った 
左のほうよ

次の十字路にさしかかるまで 
この道を真っ直ぐに


車のギアを切り替えてその角を
曲がろうとしていた

僕は失望を顔に出さない様に努め

彼女はその場所に着く前に
捨てるべきものの数をかぞえていた

左だよね 

其処には真に永続的なものが存在し

僕等ふたりは 
それに属する事になるのだから

確かに そのはずだった

だけどこう言ったんだ

もう少ししたら行くよ 
少し待ってくれないか

僕にはそれしか答えられなかった

彼女は腕時計を見て後ろを振り向く

もう時間が無いの そう言った

僕は今までに 通り抜けて来た
幾つかの街の名前を思い出していた

彼女は沈黙の中に腰を下ろせる
場所を探し求めて歩き続ける

僕は何も取り乱す事なく
彼女を見送った

車のバックミラーには
何も映りはしない

わかってる 

僕等は
愛し合わなくてはならなかった


右に行っても左に行っても結局は
僕にとっては同じなんだ

何処へも辿り着けやしない

最初から何処に行きたいのかなんて 
わからなかったんだ

そして彼女は左へと向かった 

一度も振り返る事もなく

僕は十字路近くの路肩に
乗り捨てられた車を見ていた 

ずっとずっと長い間 見ていた

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