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君を捨てる 《詩》
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「君を捨てる」
君を捨てる
其の傷跡は誰にも見えない
深さや形を変えてなおも
消える事無く記憶の中に生きている
僕は独り君との足跡を辿る
悲しみ
動揺
葛藤を含む象徴的な暗号
誰にもわからない様に詩的に変換し
吐露する事
それが唯一の
逃げ場である事を僕は知っていた
斬殺 斬首された風の無い深淵
其処に残された血を
跡形も無く流し去る激しい雨
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僕は捨てられ 僕は君を捨てる
雨上がりの空には
色彩を失くした虹が出る
誰にも見えない虹を見た
僕の記憶の混濁が曖昧な欲望を生み
全ての色彩を奪い去る
小さな片隅の光景が
理不尽な型で切り取られる
其れは僕等が身につけた
固有の自我であり
また
自分自身が傷つきたく無いと言う
防衛本能も含まれている
気遣いだとか思いやり
綺麗な言葉で表現すれば
そうなるのだろう
僕等は
無数の仮説の中で生きている
遠方にある光は届かない
そう君は書き残す
静かに個体としての輪郭を失い
想いは文字に置き換えられ
いずれ消えてゆく
それでも虹は此処にある
消える事無く此処にある
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