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岸辺の楽園と花束と 《詩》
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「岸辺の楽園と花束と」
花束を持って来たよ
貴方が何の花が好きなのかは
僕にはわからない
とにかく沢山の花を持って来た
夜の端っこで夢を見たんだ
ありもしない夢を見た
離れて行く人と傍に居て欲しい人
何もかもが上手く行かなくて
心を隠して笑ってみせた
僕の言い訳すら聞かずに
消えた貴方と
優柔不断に時をやり過ごして来た僕は
ポストモダンの岸辺で
ダイハードな楽園を創り続けていた
神様の教えの光に似た
必死の懇願を蹴り倒してまで
其処は僕等にとって必要不可欠な
場所だったからだ
洋品店の店先に並ぶ
ハンガー吊るしの凡庸には興味な無い
人生が失速して行く
何処か間違った軌道に堕ちて行く
そんな感覚を怖いと思った
溜め息や吐息の中にでさえ
見出せる自己主張
祝祭的な色彩が薄い事を除けば
全ては僕の好みだ
其の非日常性に心を惹かれた
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セピア色に変色した
廃墟の様な街並みを抜け出した
此処は小さな秀作が幾つも寄り固まり
巨大な失敗作を創り出している
行こう もう行かなくちゃいけない
僕等の創り出した楽園には
実際に動く回転木馬がある
其の一画を貴方は
ヘブンと呼んでいた
もう直ぐ
「アルジャーノンに花束を」
の新訳本が出るらしい
其れを心待ちにしていたね
楽しみだね
そう言って貴方の手を握ろうとした
だが 其処には何も無かった
そうだ 貴方はもう居ないんだ
死んだんだっけ
何処かに消えたんだっけ
わからない 思い出せない
花束を持って来たよ
貴方が何の花が好きなのかは
僕にはわからない
とにかく沢山の花を持って来た
花束を持って来たよ
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