蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト・キャスター 元米国AP通社、仏AFP通信社、TIME誌特派員。明治大学名誉教授、SBI大学院大学学長、外交政策センター理事、価値創造フォーラム特別顧問、東京クラシッククラブ専務理事 著書は『ドナルド・トランプ世界最強のダークサイドスキル』など多数。

蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト・キャスター 元米国AP通社、仏AFP通信社、TIME誌特派員。明治大学名誉教授、SBI大学院大学学長、外交政策センター理事、価値創造フォーラム特別顧問、東京クラシッククラブ専務理事 著書は『ドナルド・トランプ世界最強のダークサイドスキル』など多数。

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    こんにちは、コロナ禍ですっかり韓国ドラマにハマってしまった国際ジャーナリスト・キャスターの蟹瀬誠一です。気になるニュースや世界の出来事、そして個人的な体験まで独自の目線からから書いていきます。

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討論会で勝ったが、選挙で勝てるか?

 今週は一日遅れてこの原稿を書いている。というのも火曜日にフィラデルフィア国立憲法センターで行われたABCニュースの米大統領選討論会(Debate)の結果を見極めたかったからだ。    下馬評では接戦が予想されていたが、カマラ・ハリスとドナルド・トランプの直接対決は、冒頭で黒のパンツスーツで身を固めた身長160センチ足らずの小柄なハリスが身長190センチ・体重110キロの巨漢トランプに堂々と歩み寄って握手をした瞬間から流れが決まった。    虚を突かれたトランプは少なからず狼

    • トランプ裁判

      全米がテレビにくぎ付けだ。 といっても画期的新商品の発表やサスペンス映画のことではない。今年の大統領選で再選を狙うドナルド・トランプ前大統領の悪行を裁く裁判が佳境に入ったからだ。なにしろトランプは不倫口止め料から連邦議会襲撃事件まで4つの刑事裁判で被告となっている。 口火を切ったのは4月15日に始まったニューヨーク州での裁判。間もなく評決が下されるとみられるこの裁判でトランプは自身の不倫の口止め料を不正に処理したとして計34件の罪に問われている。注目集めたのはふたりの「スター

      • アメリカ最高裁は最悪!

         米国首都ワシントンD.C.にギリシャのパルテノン神殿をモチーフとした世界でも有数の美しさと壮大さを誇る建物がある。法と正義の守護者である連邦最高裁判所だ。    ところが近年、その憲法の番人が暴走している。自由と平等を守るために存在するはずの最高裁が急激に保守化し、国民の自由と平等を脅かしつつあるのだ。今年の大統領選にも影響を与えることは必至だから深刻な事態だ。    理由は極めてわかりやすい。法律など端から眼中にないトランプ前大統領が在任中にお気に入りの保守強硬派3名を最

        • トランプ裁判が始まった!

           暴君の落日となるか、それとも思わぬ逆転劇か。  米国史上初の大統領経験者の刑事裁判が4月15日、ニューヨーク州で始まった。  傍若無人な言動で世間を騒がせてきたトランプ前大統領は被告として裁判所に到着するなり集まった内外の報道陣に向かって「こんなことはいまだかつて起きたことがない。政治的迫害だ!」といつもの調子で叫んで法廷に入ったが、その表情には焦燥感が漂っていた。  罪状は、大統領選の投票日が目前に迫った2016年秋に不倫スキャンダル隠しのため元ポルノ女優に支払った口

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          プーチンの世界(追記)独裁者の黒い影

           プーチン大統領の大統領選挙圧勝宣言からわずか5日後の3月22日、首都モスクワ郊外で凄惨なテロ事件が発生した。    推定6000人が集まったロックコンサート会場「クロックス・シティ・ホール」に迷彩服姿で武装した男たちが銃を乱射し、建物に火を放って炎上させたのだ。死者は139人(27日現在)に上っている。    連邦保安局(FSB)によると、事件の翌日に容疑者11人がウクライナ国境から100キロほどの地点で拘束され,実行犯とされる4人はテロ行為の罪ですでに起訴された。そのうち

          プーチンの世界(追記)独裁者の黒い影

          プーチンの世界 (後編)

          5.プーチンとロシアを乗っ取った男たち   2000年5月7日、新大統領の就任式がクレムリン大宮殿で開かれた。高いアーチ型の大広間の中央に敷かれた赤絨毯の上をうつむき加減で肩を揺らしながら歩く黒スーツのプーチンの口元は珍しくほころんでいた。  最前列で拍手をしていたのはエリツィン前大統領の取巻きたち。だが招待者の人だかりに隠れて彼の出世を誰よりも喜んでいたのは「シロビキ」と呼ばれるレニングラード時代の旧KGBの仲間達だった。  彼らこそが、治安当局、犯罪組織、政治家そし

          プーチンの世界 (後編)

          プーチンの世界 (前編)

           人権弾圧や台湾問題で火花を散らず米中関係やウクライナ戦争に世界の注目が集まる中、西側諸国の批判や経済制裁に晒されてもしたたかに権力を維持している核大国のリーダーがいる。  ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(71)だ。アメリカ大統領選をあざ笑うように3月の中旬の大統領選挙で圧倒的勝利で5選を果たした。なにしろ彼の政敵は殺害されるか獄中にいるか亡命しているかだから、投票前から彼の当選は既定路線で、公式発表の得票率は87%。  すでに2020年の憲法改正によって2036年

          プーチンの世界 (前編)

          史上最大の選挙の年に何が起きているのか

           世界史上最大の選挙の年に何が起きているのか    史上最大の選挙の年と言われる今年、反エリート感情を煽って大衆を扇動する右翼ポピュリズムと国家主義の波が世界を混乱に陥れようとしている。    2020年、虚言、暴言、妄言で世界を混乱に陥れた前大統領ドナルド・トランプがバイデン大統領に敗れた時は、世界中の多くの人々が安堵のため息をついた。傍若無人なトランプ大統領の出現や英国のEU離脱に象徴されたような危険なポピュリズム政治の勢いが衰えたかに見えたからだ。    しかし、現実は

          史上最大の選挙の年に何が起きているのか

          トランプがびびる有罪判決と破産

          「俺はいつも正しい。これは魔女狩りだ!」  そんな虚言、暴言を吐いた挙句に刑事被告となったトランプ前大統領がまたホワイトハウスに戻ってくるのか。今年のアメリカ大統領選は極めて異例な展開となっている。もしトランプ再選となれば世界にとって悪夢の再来だ。  まず異例なのは、すでに共和党はトランプ、民主党は現職のバイデン大統領と両党の候補者がほぼ確定していることだ。  例年なら1月15日の共和党党員集会を皮切りに両党の目ぼしい候補者たちが各州の予備選挙やTV討論会で競い合い党代表

          トランプがびびる有罪判決と破産

          「パレスチナ人などと呼ばれる人々は存在していなかった」に象徴されるパレスチナ人の悪夢

           ブラッド・ピット主演の『セブン』という映画を見たかたならキリスト教の聖書に由来する「七つの大罪seven deadly sins」という言葉をごぞんじだろう。  人が犯す罪の中で最も重いとされるもので、「高慢 Pride」「物欲 Covetousness」「色欲 Lust」「憤怒 Anger」「貪欲 Gluttony」「嫉妬  Envy」「怠惰 Sloth」の7つを指す。 しかしこれらだけでは説明がつかないほど罪深い殺戮が、今中東で繰り広げられている。  パレスチナ紛争だ。

          「パレスチナ人などと呼ばれる人々は存在していなかった」に象徴されるパレスチナ人の悪夢

          忘れられた戦争~ミャンマー内戦

           ウクライナ戦争に世界の関心が集まる中、日本と馴染みが深いアジアの仏教大国で血みどろの「忘れられた戦争」が続いている。 ミャンマー内戦だ。  国連の調査によれば、国軍がクーデターを強行してから2年半余りの間に、同国で少なくとも800人の子供を含む3000人以上の民間人が軍によって殺害され、およそ130万人が家を追われたという。 「これは忘れられた戦争であり、人道に対する組織的犯罪です」  調査を担当した国連特別報告者トーマス・アンドリュースは記者会見でそう発言して軍事

          忘れられた戦争~ミャンマー内戦

          その時、僕は市街戦の中にいた(3)

           いったい誰が集まった群衆を先導あるいは扇動して最高会議ビルに突入させたのか。その疑問の答えは未だ釈然としない。しかし10月3日の大規模衝突がエリツィン大統領に武力行使の口実を与えた事は間違いない事実だ。  エリツィンはモスクワ市内に非常事態を導入する大統領令を出し、4日朝から戦車を含むロシア軍を投入し、最高会議ビルの攻撃に踏み切った。政治的に中立を守ってきた軍が、結局政府側についたことが対立する大統領と議会の明暗を分けたわけだが、その裏には4日未明に大統領自らがこっそり国

          その時、僕は市街戦の中にいた(3)

          その時、僕は市街戦の中にいた(2)

          「あれは何だ。黒い煙りが上がっているぞ!」その日の夕方、修道院から最高会議ビルへ向かう途中で緊張が走った。大掛かりな反政府デモに遭遇したのだ。    モスクワ市内を走る幹線道路のひとつサドーヴォエ環状道路を数千人のデモ隊が鉄板や財もうで築いたバリケードで数百メートルに渡って占拠し、武装した警官隊と睨み合っていた。燃え上がる古タイヤや材木から黒煙が立ち上る現場でデモに参加している市民に話しを聞くと、その場所では当日ロックコンサートが開かれる予定だったのだが反政府集会になり、警官

          その時、僕は市街戦の中にいた(2)

          その時、僕は市街戦の中にいた

           ウクライナ戦争の最中に内紛で混乱しているロシアを見ていて、私は先が読めなかった1993年10月のモスクワ騒乱を思い出した。  ロシアンルーレットというゲームがある。弾丸を一発だけ込めたピストルで弾倉を回して弾丸の位置を分からなくしてから、順番に自分の頭に向けて引き金を引いていく命がけのゲームだ。気がついたら突然そんな危険なゲームをやらされていた感があったのが1993年10月のモスクワ市街戦だった。  パパパパパと鳴り響くおびただしい銃声に身を屈めながら、いよいよロシアン

          その時、僕は市街戦の中にいた

          「教育は芸術でなければならない」

            以前にある人からこんな逸話を聞かされた。  その昔、ある国の王様が国民の中から最も優れた人物を見つけて栄誉を授けようと考えたという。  裕福な資産家、癒しの力を持つ人、知恵と法の知識を持つ人、商才を称えられた人など多くの成功者が王宮に連れてこられた。しかし最も優れた人を選ぶのはとても難しいことだと分かって王は頭を抱えた。そして、ついに最後の候補者が王の前に立った。  それは女性だった。髪は白く身なりも派手ではなかったが、その目は知識と理解そして愛の光で輝いていた。「このも

          「教育は芸術でなければならない」

          トランプの落日が見えてきた

          「この起訴状全文を読んでほしい」 ドナルド・トランプ前米大統領が政府の機密文書を違法に持ち出したとして起訴された事件の捜査を主導したジャック・スミス特別検察官は9日、記者会見でそう米国民に異例の訴えを行なった。   彼の厳粛な態度にはトランプが「米国を危険に晒す行為」を行なった事に対する義憤と「犯罪の範囲と深刻さを理解してもらいたい」という検察官としての強い信念が込められていると感じ、さっそく私もフロリダ州マイアミの連邦裁判所に提出された44ページの起訴状全文をじっくりと読ん

          トランプの落日が見えてきた