私にとってのnote ―レディに向けて
こんな話がある。
実話かどうかは定かではない。
誰に聞いたのか、どこで読んだのか、思い出せない。
ただ好きな話だ。
第1次世界大戦中のこと。
ドイツ軍によって捕虜にされたフランス軍士官のための収容所があった。
そこでの生活は乱れていた。すべてが自堕落で、不潔であった。
「男やもめにウジがわく」という言葉があるが、5、6人の男が、同じ部屋に押し込まれていた。
祖国のために英雄になるんだと馳せ参じたのに、虜囚の辱めを受け、無為な日々を送る彼らの生活は、まったくもって乱雑極まりないものであった。
イライラとウツウツとモヤモヤ。
些細なことで、すぐ喧嘩になった。
ある日、ひとりが言った。
「どうだい、ここにレディがいると想像してみようじゃないか。」
そしてすべてが変わった。
朝起きると「おはようございます、マダム」と挨拶をした。
みんな、きちんとヒゲを剃るようになった。
ちゃんとシャツのボタンをとめるようになった。
もちろん念入りに掃除をするようになった。
誰も猥談を大声ですることはなくなった。
食卓には、レディのために空席がひとつ用意された。
水差しの水は、まずレディのためのグラスから注がれた。
食事の奪い合いはなくなった。
ジェントルマンとして遵守すべき礼節はひとつだけ。
レディの頬を赤くしてはいけない-。
だから彼女を泣かせてはいけない。怒らせてはいけない。恥ずかしい思いをさせてはいけない。
不快な夏に、noteを書く。
日本の夏は今年も猛暑だ。湿気もすごい。
夕食をいただくと、頭から汗が流れてきて、まるでシャワーを浴びたようになる。
半裸で寝台に倒れる。
氷枕を抱きしめる。ひんやりと気持ちがいい。
かつてある女性に「冷たいひとだね」と言ったことを思い出す。あの表現は正確ではなかった、僕が間違えていた、と反省する。
眠ろうと思うが眠れない。
そうだ!noteを書こうと思いたつ。
歯を磨き、顔を洗い、衣を身にまとう。
そしてPCを立ち上げる。
そう。
僕にとってnoteを書くとは、僕が書いたものを読んでくれる読者たちと向き合うこと。そこにはもちろん幾人ものレディがいらっしゃる。
だから恥ずかしくない格好をする。
誤字脱字に注意して、〈公開に進む〉まえに幾度か読み直す。
最低限の礼節を守りたい。
それはまた、自分で自分の生活を律することにもなるだろう。