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アイアンじっちと私

私が、小学2年くらいの時にその存在はいた。アイアンじっちとは、イタズラや悪いことをした子どもに対して、ゴルフのアイアン?を振りかざしながら、本気で追いかけてくるじーちゃんであった。

これがなかなか迫力があるらしい。想像して頂きたい。そりゃーアイアンを振りかざしながら、漫遊記?(漫☆画太郎)みたいな凄まじい顔して全速力で追いかけてくるじーちゃんがいたら怖いだろう。

今なら、軽く捕まってしまうかもしれない。しかし当時は悪ガキが怒られるだけなので、さしてみんな気にせず、「あーまた何かやらかしたな」みたいなゆるーい空気があった(笑)

私は、遠くから追いかけられる男子を見たことはある。しかし、直接見たことはなかった。というか、祖父が重なってむりだった。その頃の私は、大変でっかい思い込みをしていたのである。

私の認識として【じーちゃん】とは、殴る人のこと。ものを壊す人のこと。みんなを傷付ける人のこと。だと思い込んでいたのである。つまり、世界中、日本中のじーちゃんは、そう言う生き物なのだと信じて疑わなかったのである。これには理由がある。

私のじーちゃんの話は、重たい話なのでダークフォース青がみたい方だけ、過去記事の【家族は必ずしも~】をどうぞ(ΦωΦ)つ❤

推奨できないが、家族の在り方について思うところがある人には、何らかを感じて貰えるかも知れない。


さて、話を戻そう。何故、アイアンじっちの話をするかと言えば。この人こそが私に、

【思い込みや先入観は、目が曇る】と教えてくれた人だからである。

私は、ある朝たまたま早く学校に着いた。というか、まだ、学校は開いていなかった。遠くに朧気に見える時計は6時半を指していた。しかもランドセル🎒を忘れ、リコーダーだけしっかり手に持っているというスタイルである。ただのうつけか、最先端を行きすぎて理解されない者か…いや、潔く認めよう。ただのうつけだ。

私は、当時学校まで2キロ程の距離を通っていた。他のみんなは大体1キロ前後だった。言い訳だが、ランドセルを取りに帰るのが面倒くさく感じた。

それよりも、目の前に広がる黄金になびく稲穂🌾に釘付けになっていた。学校の周りは、当時田んぼか畑だった。遮るもののないその美しさを。無限に広がる命の囁きのようなものを聞いていたかった。

そんな私は、何を思ったかリコーダーを朝っぱらから吹き始めてしまったのである。私の楽器を演奏する能力は壊滅的だ。ぴーとかプーとかいう、音と呼んで良いかわからないものだけが鳴り響いていた。

その時である!

凪がれていた黄金から、

鼠小僧のような格好をしたでかい奴がむくりと姿を現した。


私は笛を咥えたまま、固まっていた。鼠小僧は、頭にしていた手ぬぐいをはずしながら「いま、何時じゃとおもっとる」とやや低いトーンで話かけてきた。

私はさらに固まった。

それが【アイアンじっち】だとわかったからだ。

体が震える。動かない。怖い!また殴られるの?恐れの思考が止まらない。力が上手く入らない。笛を思わず落としてしまった。運悪く其方の足元に転がっていく…もう駄目だ…!とぎゅっと目をつぶったとき、

「ぶあっはは!」

となんだか天を突き抜けるような豪快な笑い声が響いた。私はそのまま、腰が抜けた。

「何を化け物をみたみたいな顔しとる?こんな早くから子供ひとりで何しとるか。学校はまだやっとらんじゃろ。カバンはどうした?」


私は、驚いていた。矢継ぎ早に飛んでくる質問はなんだかどれも優しかった。其処には、怖さがなかったのだ。そんな時になるものは腹の音だと決まっている。

【ぐ~!!】


アイアンじっちは、さらに高らかにわらった。私はなんだか優しい風に纏われていくのを感じた。

「なんだ、飯食ってないんか?あさは、しっかり命を頂くものよ。ほら、ぼた餅じゃ。うちのやつがつくったのは上手いんじゃ。」

黒く日焼けした大きなゴツゴツした手には、優しい美味しそうなぼたもちが、ちょこんっと乗っかっていた。

私は、アイアンじっちの手に目を奪われた。ああ…このおじさんの手は農家の人の手だ。鍬を握り、耕す。種を蒔き苗を植える。命をしっているひとの手だ。何十年も命に触り見つめてきた手だ。

私が、じっと手を見ていたことに気が付いたのかアイアンじっちは、嬉しそうに微笑んだ。

何も言わず、二人でただ黄金の稲穂🌾の前でぼたもちを頬張った。うちのばーちゃんのつくる味とは違っていたが、涙が出る味がした。優しい優しい味だ。必要な物だけがある味だった。

私は、それをキッカケにアイアンじっち…つまり世界中、日本中のじーちゃんが恐ろしいわけでは無いのだと知った。

なんだか、救われた気がした。私とこのアイアンじっちとの交流は小学校を卒業するまで続くこととなる…。

そんな、はなし。




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青紗蘭 (せい しゃらん)
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