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中国の一年間のスケジュール

皆さんもご存じかと思いますが、中国では毎年特定の祝日や行事があります。国慶節や中秋節、メーデーなどは典型的なものでしょう。

これとは別に、中国政府・中国共産党独自の年間行事というものも存在します。私自身は20年間中国ニュースの翻訳をしているだけあって、これらのタイムスケジュールが体にしみついてしまっています。これは職業病のようなもので、一般の人は覚える必要はないものです。

とはいっても、このような中国政府・中国共産党の年間行事をしっかり把握しておくことはチャイナウォッチャーにとってかなり重要であることも事実です。

そこで今回は「中国ニュースの基礎知識」2回目として、中国政府・中国共産党の1年間の「定例行事」の大体のスケジュールを皆さんと一緒に復習したいと思います。

ただし、中国の国内情勢、国際情勢によってこの「定例スケジュール」は変動することがあることをご承知おきください。

特に20年と21年はコロナの発生と感染拡大でスケジュールが大きく変動し、前例のない年となりました。皆さんにはそのあたりも考慮に入れてみていただければ思います。つまり、これからご説明するのは「中国政府・中国共産党の全体的な一年の流れ」としてとらえていただければ幸いです。

では「ざっくりと」ではありますが、1月から順番に見ていきましょう。

1月

1月1日の元旦はかなりシンプルで、ほぼ毎年指導者の動向は見られません。ここ数年は雑誌「求是」に元旦付で総書記の論文が掲載されるぐらいでしょうか。というのも皆さんご存知の通り「中国の正月」は日本と違い、「春節(旧正月)」となっています。このため、中国の暦の上での休日は元旦(または元旦を含めて正月数日)のみとなっていることを覚えておきましょう。

一方でここ数年は、正月3日~4日から外交部長がアフリカを外遊することが定番となっています。外交部長のその年最初の外遊先をアフリカにすることで、「中国政府はアフリカを重視している」ことをアピールする意図があります。

春節は旧暦1月1日ですので、日にちは毎年変動します。大体は1月中旬から2月中旬ぐらいまでが目安でしょうか。

そして1月3日ぐらいから春節までの日程を使って、国内の各省や直轄市の人代、政協で重要会議が相次いで開催され、省人代常務委主任、省政協主席が選出されます。

春節までの期間で全人代や政協、党が主宰する春節の「団拝会」、つまり茶話会が開催されます。この茶話会で各指導者が出席して講話をしたりします。

春節後はほぼ一週間休みとなり、中央の指導者も顔を出すことはありません。

2月

2月は春節休日明け後も地方の人代、政協で会議ラッシュが続き、地方の指導者の人事が確定します。

続いて全人代会議・全国政協会議開催直前となる2月下旬に、全人代常務委会議、全国政協常務委会議が開催されます。これらの両会議では、3月初めに開催される全人代会議、全国政協会議のための最終調整が行われます。

特にこの2月末の全人代常務委会議では前年末の全人代常務委会議で提出された政府活動報告の原稿の採択が行われ、ここで総理が3月初めの全人代会議開幕式で行う政府活動報告の原稿が確定します。

3月

3月は中国政府の1年で最も重要とされる全人代会議、全国政協会議が開催されます。ここ数十年は全国政協会議は3月3日、全人代会議が3月5日に開催されることが定番となっています。ただコロナが国内を席巻した20年では、3月の開催は見送られました。これはきわめて異例で、私がこの中国のニュース翻訳を初めてから初めてのことでした。

会期は、胡錦濤・温家宝体制の時などは2週間ぐらいが定番で、3週間の年もありましたが、近年はスリム化がなされています。今年は10日ぐらいでした。この会期も毎年変動するので、対応する私たちの悩みの種になっています。

全人代会議の開幕式では、総理が活動報告を行い、その年の政府の方針を内外に発表します。全人代開幕から大体数日後には外相(外交部)の記者会見が行われ、閉幕後には総理が内外メディアを前に記者会見するのが定番になっています。

4月~6月

年間で最重要な行事である全人代が閉幕した後は中国政府にとっては、基本的に「フリータイム」といえるでしょうか。やはりこの3カ月は、総理が活動報告で発表した内容を下級の政府幹部が末端で実行する時間に充てられているからとも言えます。

とはいえSCOの首脳会議やアジア信頼醸成会議など、年によっては国際的な会議が目白押しだったりするので、結果的にはかなりスケジュールが立て込んだりして、密になったりします。

7月~8月

7月~8月は、中国政府・中国共産党にとってはあまり動きがないとも言えますが、チャイナウォッチャーにとっては比較的重要な時期と言えます。

まずは7月1日。この日は中国にとって2つの意味で重要な日です。1つは中国共産党創設記念日。●●周年といった節目の時は北京で盛大な式典が挙行されます。近年では軍事パレードが開催されたこともありました。

2つ目は香港返還記念日です。これも香港返還●●周年など節目の時は香港で式典が開催され、中央の指導者が出席することもあります。

これら記念日を通過すると、北戴河会議の時期が到来します。

これは毛沢東時代から続く、中国共産党最上層たちが行う秘密会議です。ここで中国共産党の次の年の方針が決定されたり、人事が決定されたりします。

この会議は秘密会議ということもあり、「いつからいつまで開催されるか」は公にアナウンスされません。しかもこの会議の会期は何日間なのかもわからず、毎年変動します。このため、われわれ外部の人間にとっては非常に厄介な問題になっています。

ただメディアを定点観測していると、中央の指導者がそろってメディアに登場しなくなる時期というのが見えてくるんですよね。そのタイミングを狙って北戴河会議が開幕したことを判断します。あとは「外交部の定例記者会見」の休会が外交部ウェブサイトでアナウンスされたりします。この休会の期間を目安にして判断することもできます。大体通常は7月下旬から8月中旬ぐらいまででしょうか。

北戴河会議が開催されているかどうかの判断材料はまだ存在します。定番としては、大体8月頭ぐらいに宣伝部長が「北戴河」で労働模範と会見したというニュースがCCTVで報じられることが多いですね。

会議が終わったかどうかはやはり、中央の指導者の動静報道が報じられたのを見て判断します。例年のパターンでいうと、8月15日の(日本の)終戦記念日前後でしょうか。これも年によって変わります。

9月

9月の重要行事は9月18日の満州事変勃発の記念日です。この日に向けて、中国(国民)の対日感情が悪化するのがお約束となっています。毎年この日になると、瀋陽をはじめとした多くの大都市で防空警報がならされることが定番です。また瀋陽の「9・18」歴史記念館では記念行事が開催されます。年によっては中央の指導者が出席することもあり、この出席の有無で、その年の対日外交の温度感を測ったりすることもあります。

10月

まず重要なのは10月1日です。中国の建国記念日であり、重要イベントが開催されることもあります。●●周年という節目の時は、国慶パレードが開催された年もありました。

この後、10月中旬ごろに開催される中国共産党の重要行事があります。例年開催される中国共産党中央委員会第●回全体会議(●中全会)、5年に1度開催される中国共産党第●●回全国代表会議(●●大)です。

重要なのは中国共産党第●●回全国代表会議(●●大)のほうですね。なぜなら今後5年間にわたる党の方針がここで決定されるからです。

ちなみに今年は10月16日から22日にかけて、「20大」(中国共産党第20回全国代表会議=第20回党大会)が開催されました。

中国共産党全国代表会議から次の中国共産党全国代表会議までは5年間となっていますが、その間の年は年1回10月に、「●中全会」と呼ばれる中国共産党中央委員会第●回全体会議が開催されます。

「●中全会」の会期は通常5日から1週間程度となっていますが、開幕したとの報道は控えめなことが多く、普通は閉幕したときにまとめてコミュニケと会議の報道が出るというスタイルになっています。

ただ今年は第20回党大会が開催されたということで、党大会開催前に第19期中国共産党第7回全体会議(7中全会)が、開催後に第20期中国共産党第1回全体会議(1中全会)がそれぞれ開催され、「1中全会」で中央委員、中央候補委員、および総書記を筆頭とした政治局常務委員、そして政治局委員が選出され、外部に向けて発表されました。

11月

11月についてはあまり重要なイベントはなく、10月の中共の会議で決定した事柄を各党員が地方に持ち帰り、宣伝・貫徹に費やす時間になっています。年によっては11月頭に開催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)のニュースがあったり、中国輸入博覧会開催のニュースがあったりして、指導者は対外活動に追われることになります。

12月

12月に入ると、1年の締めとして「●●工作会議」が立て続けに開催されます。私が確認しているところでは経済工作会議、金融工作会議、農村工作会議、海洋工作会議、軍事工作会議などなどでしょうか。その中でも最も重要とされているのが経済工作会議です。次の年の中国政府としての経済方針を協議する会議だからです。毎年長文の記事が出る厄介なイベントでもあります(笑)

このほか12月13日の南京大虐殺(南京事件)記念日には南京の南京大虐殺記念館で追悼行事が開催され、メディアも大規模な宣伝キャンペーンを行います。これも「9・18」と同じように、年によって中央の指導者が出席することもあり、この出席の有無で、その年の対日外交の温度感を測ったりします。

これらの工作会議、そして南京大虐殺追悼行事が終わるといよいよ年も終盤となってきます。毎年恒例として、クリスマスを挟んだ1週間余りの会期で、その年最後の全人代常務委会議が開催されます。この会議では次の年の3月に人代会議の開催の可否、人代で総理が行う活動報告の原稿の文言についての検討が行われます。

これが終わるといよいよ年末になるわけですが、大みそかの31日には最後の重要イベントが待っています。それが主席・総書記による新年の祝辞です。
この模様は通常は、CCTVや北京放送など国内すべてのメディアを使って実況中継されます。ここで台湾問題や香港問題に言及したりすることもあります。

また、年末には全国政協開催の茶話会も開催され、指導者が演説して台湾問題に触れたりすることもあります。

◇◇

どうでしょうか。本当に「ざっくりと」ではありますが、中国政府・中国共産党の1年をおさらいしてみました。

細かく言うならばこれらの日程を縫って、このほかにも新疆工作会議、チベット工作会議、国務院常務会議、中央全面深化改革(改革の全面的な深化)領導小組会議などが開催されたり、外交部、商務部、国務院台湾事務弁公室など各国家機関の報道官が定期的に開催している定例記者会見があったりします。これらをすべて網羅するのは至難の業でもありますが、「中国の実態」をつかむ上では目を通しておきたいところでもあります。

ともあれ、もし「ここは違うのでは」というところがありましたら、教えていただければと思います。


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