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中国の政治家から学ぶ中国語(5)──数字に含まれる言外の意味

政治家から学ぶ中国語の5回目。今回は数字について掘り下げて考察していきたいと思います。

皆さんは中国語学習を始めたての際、数字は中国語でどう表現するか勉強したと思います。「一、二(两)」のような漢字の他に、量詞と組み合わせて「一个,两个,三个」といった表現も、発音と合わせて練習したのではないでしょうか。

しかし中国語においては、この「一、二、三」といった数字はその表記通りの「いち」「に」「さん」といった意味のほかに、別の意味が付与されることも多々あります。

特に数字の「一(yi1)」や「二(er4)」、または「两(liang3)」は中国語においては注意すべき語句となっています。

例を出しましょう。中国共産党が台湾問題について話すときによく提起するのが「两岸一家亲(两岸一家人)」という語句です。

この言葉。習近平主席が2013年に、92年の共通認識と1つの中国の主張を補強し、血縁関係でつながっている両岸と台湾の「現状」を表現する際に使う言葉として提起しました。その後、習近平主席は「一个中国、两岸同属一中、两岸一家亲、反对台独」という4つの主張をセットにする形で度々口にするようになります。さらにこの言葉は2014年の第12期全国政協第2回会議の政治決議、2021年の第19期6中全会の決議に盛り込まれました。

今では台湾問題で、彼らが「台湾人と大陸人のルーツ」を語る文脈で度々出てくる言葉となっています。

背景は理解できたところで、ここにある「两岸一家亲(两岸一家人)」という言葉。皆さんならどう訳しますか。

たいていの人はその字面通り、「両岸は1つの家族」と訳すのではないでしょうか。しかしここにある「一家人」には言外に、「同じ家族」という別の意味も隠されています。

なぜなら「一」には「同じ」という意味もあるからです。このことを知らずに何も考えないで「一つ」としてしまうと、話者が伝えたかったニュアンスを正確に伝わりにくくなってしまいます。

これに対応するのが「两」という数詞。皆さんも中国語の会話で「两回事」という語句を聞いたことがあるのではないでしょうか。

この「两回事」は「2つのこと」という訳にはなりません。なぜなら「两」には「違う」とか、「別の」といったニュアンスが言外にあるからです。このため、「两回事」は「2つのこと」ではなく、「違うこと」と訳す必要があります。

では先ほどの「家亲(两岸一家人)」に戻りましょう。この言葉には上記の「一」と「两」が同時に入っています。これはこの語句の考案者が意図的にこのようにしたと私は考えています。

つまり、「大陸と台湾は海峡を挟んで海岸は異にしているが、同じ1つの家族なんだ」というニュアンスを言外に込めてあると理解できます。このようなことを考えると、この「两岸一家亲」は秀逸な言葉だと言えるのではないでしょうか。

イデオロギーなどを抜きにして、中国の指導者の講話や演説には、こういった数字を上手く使ったスローガンや言い回しがこの他にも多数存在します。ぜひ見つけて見てください。


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