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中国の政治家から学ぶ中国語(4)
中国のニュースを翻訳する上で必ず遭遇する、「翻訳しにくい語句」とは何か。人からこのような質問をされたときに皆さんならどう答えますか。
私なら「抓」の処理方法と答えるでしょうか。それほど中国メディアの政治記事にはこの「抓」という動詞が頻繁に出てきます。
一方で、「抓」という言葉を中日辞書で調べてみると以下の解釈が出てくるはずです。
①(指で)取る,つかむ,握る
②ひっかく
➂捕まえる
④強化する
しかし実際の中国メディアのニュース記事を翻訳する際に、これら4つの解釈を訳語に当てはめてもいずれにもしっくりこないケースが多いのです。こうなると、ここで多くの翻訳者が頭を抱えることになります。例えば中国のニュースでは頻繁に出てくる次のフレーズについて考えてみましょう。
“两手抓、两手都要硬”
これは改革開放を提唱した鄧小平氏が「中国の特色のある社会主義」の内容として提起したフレーズです。以降江沢民、胡錦濤、習近平といった歴代の最高指導者も講話の際に度々口にしており、中国政治の中で指導者が貫くべき政治原則になっています。
この「两手」は、「精神文明」と「物質文明」のことを指します。つまり「两手抓、两手都要硬」とは直訳するならば、「精神文明」と「物質文明」の両方とも「掴み」、両方とも確固として「掴まなければ」ならない、という意味になります。
ただ皆さんも理解しているかもしれませんが、ここでいう「抓」は具体的に、かつ物理的に何かを「掴んでいる」というわけではありません。ですからこれをこのまま日本語に訳してしまってはしっくりこないというのが率直な感想ではないでしょうか。
私も当初「抓」の日本語訳に向き合った時、どう訳すかあれこれ悩んだ記憶があります。後になり、この場合の「抓」は具体的かつ物理的な「掴む」ではないという考えから、もっと抽象的な「取り組む」という訳語を当てるようになりました。
この考えならば、「両方同時に取り組み、両方とも確固としてとりくまなければならない」という訳語を導くことができます。こうすることでより日本語らしい訳文にすることができます。
また、この「两手抓、两手都要硬」は中国の官製メディアに登場してから既に数年以上経っています。それにともない中国の指導者もここから派生してさまざまな語句を生み出しています。
例えば習近平総書記が主宰した以下の会議の報道から見ていきましょう。
ここの習近平総書記の講話の中で、次のようなフレーズがあります。
各级党委和政府要坚定必胜信念,咬紧牙关,继续毫不放松抓紧抓实抓细各项防控工作。
ここの「抓」も、「取り組む」という解釈で問題ないでしょう。しかし「抓」という語句単独でも、処理に手間がかかるのに補語までつけるとより処理がめんどくさくなりますよね。
しかし「取り組む」という訳語を軸にして訳文を構築すると、驚くほどスムーズにいくのです。
各級党委・政府は必勝の信念を打ち固め、歯を食いしばり、引き続き少しのゆるみもなく各予防・抑制活動をしっかりと、着実に、きめ細かく取り組まなければならない。
どうでしたでしょうか。全ての場面で「抓」=「取り組む」とは限りませんが、「このような処理の仕方もあるのだ」ということを皆さんも頭の片隅に入れておくといいのではないでしょうか。
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