将などの未来形をどう訳しわけるか。
今日は中国語文でよく出てくる未来形の処理の仕方について語りたいと思います。
中国語においては「未来形」の表現と言えば、どんな語句を皆さんは思い浮かべますか。多くは「將」「要」「快要」「預定」などなどでしょうか。
これに対して、日本語における未来形にはさまざまなバリエーションがあります。これを中日翻訳の時にどうあてはめていくかはかなり悩みどころです。
中国語の「預定」は「~する予定になっている」でしょうし、「快要」は「もうすぐ~する」でほぼ固定でしょう。
問題は「將」「要」をどうするかということです。中国語の「將」「要」の未来形をより正確に日本語に翻訳するならば、考えることがいくつかあるからです。
このあたりの文末のバリエーションについては以前のnoteでも少し触れました。
この中で私は、未来形の文末処理として次のようなものを紹介して解説しました。
この他に、中国語の「將」「要」の日本語訳としてに当てはめることができる未来形としては次の2つが挙げられます。
実は中国語の「將」「要」を日本語訳する際に、これらの6つの未来形の違いをしっかりと理解し、それを訳語に落とし込むことは、「違和感のない日本語訳」を構築する上でとても重要です。
そこで今回はこれら6つの未来形の語尾について、「どのような場面で使うべきか」ということを解説していきたいと思います。
①「~することにしている」
この語尾についての解説として私は以前のnoteの記事で、「記事の筆者自身(発言内容ならば発言者自身)の意思が入っている。自分の予定」と説明しました。
これはどういうことなのか。つまり言い換えるならば「記事の筆者自身(発言内容ならば発言者自身)が設定した(知っている)予定」「主観的な予定」だということです。ですから主語は必ず「私」でなければなりません。
例えば・・
「私は明日、飲み会に参加することにしている」とは言えますが、
「彼は明日、飲み会に参加することにしている」とは言えません。
なぜか。私自身の予定なら、当然ながら私はその予定を知っています。
でも同じように仮に彼の場合、その彼の「飲み会に行く」という主観的な予定を、私自身が知っているはずはありません。
ですから理論上、下の文はありえないことになるわけです(「彼が事前に「私」に連絡しているかもしれないやんけ」という突っ込みについては後で解説します)
②「~することになっている」
これと対になる未来形が、この「~することになっている」です。私は以前のnoteで、これを「記事の筆者自身(発言内容ならば発言者自身)の意思が入らない不可抗力で発生する未来)」と表現しました。
これはどういうことなのか。言い換えるならば「記事の筆者自身(発言内容ならば発言者自身)の他に、誰もが知っている未来」ということです。「不可抗力で未来に発生する予定」だと思っておくといいかもしれません。
「不可抗力」ですから、ここに筆者(話者)の主観的な意思は入っていません。
みんなに周知されている未来ですから
「私は明日、飲み会に参加することになっている」と訳すことも
「彼は明日、飲み会に参加することになっている」と訳すことも可能なわけです。
一方で、中国語の「要」は筆者の主観的な意思が込められた未来形ですから、中国語の「要」=日本語の「することになっている」という訳は成り立たないということを覚えておきましょう。つまり「将」限定の訳だということですね。
③「~する」
これも①の未来形とほぼ同じと考えることが可能ですが、①よりも、より明確に記事の筆者自身(発言内容ならば発言者自身)の意思が入っています。「近い将来やる」というニュアンスでしょうか。
このような理由から、この場合の主語については、「私」を使う頻度がより高いと言えます。
①の「彼は明日、飲み会に参加することにしている」はそうはいっても、筆者自身が彼の予定を前もって「大まかに」知っていた可能性を読むことも可能です。だから全くないとも言えませんね。
でも「私は明日、飲み会に参加する」と言うことはできても、「彼は明日、飲み会に参加する」と言えるかと言われれば、①の「することにしている」よりも可能性は低いと言えるでしょう。
この場合は「彼の明日の予定を知っていて、自分が断言できる」場合前提となります。
④「~していく」
これも①の未来形とほぼ同じと考えることができるでしょう。違う点は、①「することにしている」や③「する」よりも、一層主観性、主体性、意思が込められているとことでしょうか。
このような理由から、④「していく」の場合は①や③以上に、主語が「私」になることがほとんどです。なぜか。私自身はうまく解説できないのですが、「他人の意思を知るわけがないから」と理解しています。
加えて④の「していく」は「今からやっていく」というニュアンスですから、「時間幅」と「継続性」のある未来形です。
ですから「これから」とか「今後1年間」と言ったように、「ある一定の期間」を意味する時制があてがわれることが特徴です。
ここまでの解説を踏まえて、理解しやすいように、例文を出してみましょう。つまり
「私はこれからも飲み会に参加していく」とは言えますが、
「彼はこれからも飲み会に参加していく」とは言えないということになります。
⑤「する予定である」
これも、①「することにしている」と似ていて、記事の筆者自身(発言内容ならば発言者自身)の意思が入っているケースが多いです。
ただ⑤「する予定である」は①とは違い、「彼は明日、飲み会に行く予定である」と、「彼」などの三人称を主語に取ることも可能です。
なぜならしっかりと「予定です」と言明しており、筆者自身(発言内容なら発言者自身)も承知している予定だからです。ただこれも、筆者自身(発言内容なら発言者自身)が「彼」などの人物と同じ組織などに属していて、予定を知り得ることになっているのが前提だと覚えておきましょう。
⑥「するだろう」
「するだろう」は一般的に、可能性のある表現でありますが、私自身は「將」のような、「可能」という語句がなくても「するだろう」と処理する場合もあります。
一般的に日本語の未来に起こり得る事象を「推測」する表現として、「かもしれない」があります。
「するだろう」はそれに比べると話者のやはり確信の度合いは高いと言えます。「するだろう」は「かもしれない」と「する」の中間の位置と言えるもので、日本語のこのあたりの表現は、中国語では一律「將」で処理されてしまっているとの印象を私は受けています。
だからこそ私は中国語の「將」を日本語に訳す場合、断定口調ではなく、推測口調でもない「するだろう」を採用しているのです
◇◇
・・と解説してきましたが、ニュース翻訳ならではの留意点があります。
それは発言者が「どの組織を代表して」発言しているか、記事の執筆者は「どの組織を代表して」執筆しているのかということ。
例えば、秦剛外交部長が岸田文雄首相と会った場合、秦剛部長は「中国政府」を代表して岸田文雄さんと話をするわけです。ですから秦剛部長が「中国は」と言った場合は「中国」=「私」と考えて、文末の未来形については「主体的な処理」を施す必要があります。
例文を出してみましょう。以下の文をどう訳すか考えてみてください。
秦剛外交部長が外国のカウンターパートと会見した場合、「中国側の代表」として発言しているわけですから、それ相応の処理をしなければなりません。ですからこうなります。
どうでしたでしょうか。未来形の処理はいろいろ考えるべきことがあるのがお分かりいただけたと思います。「グーグル翻訳」「機械翻訳」とはの明確な違いを付ける訳文を訳出する一つの材料として考えてみたらいかがでしょうか。