私が翻訳をするときに心がけている原則
当noteを立ち上げてから3年。ここで皆さんにさまざまな形で翻訳のノウハウをお伝えしてきました。これは私が現職の翻訳を始めてから20年あまりの間で、自分の身体で身につけてきたものでもあります。
翻訳の大原則は「信」「达」「雅」ではありますが、「この大原則を実現させるために、私自身が自分に課している原則」というものがあります。この原則を守って20年間翻訳を続けていたおかげで、クオリティーもそれなりに保てていると自負しております。
そこで今回は私自身は翻訳の際に心がけている原則をご紹介しましょう。以前のnoteで紹介したものもありますが、おさらいということで再度説明したいと思います。
自動詞と他動詞を意識する
これは特に、中日の翻訳において重要であると私は考えています。なぜか。中国語においては、自動詞と他動詞が同一語句というケースが多いからです。
例えば、「开」という中国語がありますが、これの日本語としては「開く(ひらく)」という自動詞としての意味と、「開ける(あける)」という他動詞としての意味があります。
他動詞としての意味ならば、中国語においては必ず「主語+述語+目的語」という順番でならんでいなければなりません。このため、「我开了门(私は+ドアを+開けた)となるわけですね。
一方で自動詞ならば、中国語においては「主語+述語」または「述語+主語」の並びになります。このため「门开了」(ドアが+開いた)「几点钟开门?」(何時にドアが開くの?)となります。
これを裏返して言うならば、「述語が他動詞なら目的語がなければならない」「述語が自動詞ならば目的語はない」という理屈になり、翻訳においては原文を区別する判断材料にもなるわけです。
他動詞の主語に物や事象を使わない
すこぶる簡単なことではあります。日本語においては「私は夕食を食べた」とは言いますが、「中国の車は自動運転を実施した」とは言いません。
しかし、中国語においてはこのように物や事象が他動詞の主語になりうるのです。例えば
「会议研究了其他的事项」の対訳として「会議はそのほかの事項について検討した」と訳せるか。
この場合実際には、「会議が」「検討した」訳ではありません。具体的・現実的には「会議の出席者が」「検討した」はずなのです。
これは中国語の文章によく見られる文型であり、中日翻訳者がよくひっかかるトラップとも言えます。
そのまま訳せば日本語として違和感ある文章になるわけですから、工夫をしなければなりません。私はこのような場合には「受動形」を採用し、「会議ではそのほかの事項について検討が行われた」とするでしょうか。この方が日本語としては違和感ないと考えます。
見分け方は・・文法的にうまくは説明できないのですが、やはり主語の位置に物や事象が来た時には必ず一度立ち止まってどういう文型かをしっかり検証する癖をつけることでしょうか。
使役形は極力使わない
これも間違えやすいところであります。使役形が読者に与える印象、ニュアンスが中国語と日本語ではまったくちがうからです。
中国語においては使役形に当たる語句は「让」「使」「叫」「给」などさまざまなバリエーションがあり、それぞれ語句ごとにニュアンスが異なります。
対して日本語の使役形は「させる」しかありません。しかも「させる」の背後には「目上の人間が」「強制的にさせる」といったような強いニュアンスが含まれます。中国語では「迫使」に当たると考えて差支えないと思っています。
このような理由により、私は中国語を日本語に翻訳するにあたっては、「使役形」を極力使わないようにしています。
例えば「A让BC」ならば「AがBにCしてもらう」になりますし、「A使BC」ならば、「Aにより、BはCをした」と訳すことができます。
つまりそのまま使役形で訳すのではなく、「言い換え力」を発揮して使役形の原文を徹底的に使役形ではない訳文に言い換える手法ですね。
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いかがでしたでしょうか。これらの原則や手法はこれまでも何回も説明してきましたが、書面では理解しにくいところもあると思います。
私自身それも常々感じていたことではあります。そのように考え、ツイッターのスペースで直接皆さんとお話しをして、翻訳のノウハウをやり取りできる機会を設けようと思い立ちました。8月の上旬から中旬ぐらいをめどに何回かやりたいと思っています。うまくいけば定例化も考えています。
来週あたり詳細をTwitterかnoteでお話しできると思います。
興味ある方はぜひご参加を検討ください。