自動詞と他動詞(ふたたび)
皆さんは自動詞と他動詞という言葉を知っていますか?中国語を勉強している方などはたぶん、「知っているけど、気にしていない」みたいに答えるのではないでしょうか。
日常会話程度ならばそれでもかまわないのですが、こと日中・中日の翻訳・通訳となってくると、この「自動詞」と「他動詞」を意識して訳すという作業は非常に重要になってきます。
実はこの「自動詞」と「他動詞」の処理ですが、3年前ぐらいに当noteで解説しています。
前回のnoteでは「自動詞は無生物が主語になることが多い」「他動詞は生物が主語になることが多い」と解説し、この視点から中国語文において自動詞と他動詞を見極めるといいというお話をしました。
自動詞と他動詞についてはこのほかに、中日・日中翻訳において注意しなければならない、日本語と中国語特有の「時制に対する考え方の違い」も存在します。そこで今回は特に、中国語→日本語にテーマを絞って、「中国語の文の時制をどのように処理するか」という視点から語っていきたいと思います。
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では先回出した例文で考えてみましょう。中国語の「我开了门」「门开了」が表す「動作」について、時制の面から考察していきたいと思います。
我开了门(他動詞)
「我开了门」の「开」は他動詞なので「開ける」と訳されます。なので皆さんは「我开了门」を、「私はドアを開けた」と訳すのではないでしょうか。
しかし細かいのですが、中国語の「我开了门」が表す動作を掘り下げて解説するとこうなります。
门开了(自動詞)
これに対して「门开了」はどうでしょうか。この場合の「开」は自動詞ですから「開く」という訳が充てられますが、裏のニュアンスもあります。
では「门开了」が表す動作を見てみましょう。
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これら自動詞と他動詞が示す動作なのですが、日本語と中国語では比較的大きな違いがあります。
中国語における「我开了门」は、②の「私がドアを開けた」動作、および③④の「ドアが開いている(かもしれない)状態」までを指します。
対して自動詞の「门开了」も、Ⅱの「ドアが開いた」動作と、Ⅲの「ドアが開いている(かもしれない)」状態までを指します。
「かもしれない」と書いたのはその後の状態まではその文章からは読み取れないからです。翻訳者は前後の文章の流れで、推測するしかありません(これが中国語文の厄介なところではあるのですが)
では、これら2つの中国語文を日本語の訳で比較してみましょう。
自動詞「门开了」は正確に言うと、「ドアが開いた」とも訳せるし、「ドアは開いている」とも訳せます。なぜか。
日本語の自動詞「開く」は「開く動作」を表現するのですが、「開いている」と現在進行形にすることで、「開いている状態」も表現することができるのです。これは即ち中国語における「门开了」が意味するところの、Ⅱの「ドアが開いた」動作と、Ⅲの「ドアが開いている」状態の両方を表現することができるということです。
私自身は中国語の自動詞を訳す場合に、このテクニックを使うことが多いです。
対して他動詞「我开了门」はどうなるか。
これを「私はドアを開けた」とは言えます。実は日本語における「私はドアを開けた」は、②の「私がドアを開けた」動作は表現できるのですが、③④の「ドアが開いている状態」までは表現できません。
なぜなら日本語の他動詞「開ける」は、②の「開ける動作」そのものしか指さないからです。
「開ける動作」そのものしか表さないため、自動詞の例にならって現在進行形で「私はドアを開けている」と訳したら、変な日本語になってしまいます。「今も開ける動作をしているの?!」となってしまうんですよね。
「我开了门」の動作を正確に訳に反映させるならば、「私はドアを開けた(ドアは開いている)」になるでしょうか。
まぁドアを開けたら、ほぼほぼドアが開いている状態になるわけですから、当たり前のことなのでここまで訳す人はほとんどいませんし、私もくどくなってしまうので、()で補うようなことはしません。
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どうでしたでしょうか。少々複雑な話をしてしまいましたが、わかりやすく説明するために、例文をもう少し出してみます。
ここにある表題について考察してみましょう。
一般的に、「李強総理は国務院常務会議を主宰した」と訳すと思います。しかし時制の視点から「李强主持召开国务院常务会议」が表す意味を考察するとこうなります。
中国語の「李强主持召开国务院常务会议」は①~②、時には③まで網羅するのですが、日本語の「李強総理は国務院常務会議を主宰した」の場合、「主宰する」の他動詞の特性上、読者には①のみだとの印象を与える可能性もあるわけです。
紙面の関係上、①~②まで全て日本語に訳すわけにはいかないので、私は「李強総理は国務院常務会議を主宰した」と訳すわけですが、「日本語と中国語の時制はこれほど違うんだ」ということをしっかり頭に入れておく必要があります。ということは、まだ終了していなくて今も会議が続いているという可能性もあるということですね
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どうでしたでしょうか。最後に注意点を一つ。
もちろん日本語においては他動詞に、「一瞬の動作そのものを表す」語句もあれば、「持続的に行われる動作を表す」語句、「状態を表す」語句も存在します。このあたりは個別に取り上げる必要がありますが、全部が全部私がきょう解説した法則に当てはまるとは限らないということをお伝えしておきます。