外国語学習者はSNSとどう付き合えばいいのか
自分自身常日頃感じていることがあります。それは「中国語学習者はSNSとどう付き合えばいいのか」という問題。
私が主戦場としているSNSは「X」(旧ツイッター)なのですが、「X」上にはさまざまなレベルの中国語学習者がいます。初級レベルの人もいれば、中国語検定1級に合格してしまうレベルの人も、はたまた中国語や他の言語も操れるバイリンガル、トライリンガルレベルの人もいる。自分の中国語レベルを活用して仕事を見つけた人もいる。そういう人たちをSNSで目にするたびに「すごいなぁ」と思うと同時に、「自分も負けられない(いまでもそう思っています)」という気持ちにさせられます。
私が中国語を勉強していた時代はもちろんSNSなどありませんでした。しかも当時中国語はまだマイナー言語だった時代。空前の英語ブームだった時代なので英語学習者はたくさんいましたが、中国語学習者は自分から見つけに行かなければ、会う機会もなかった時代でした。
幸いにして私の周りには一緒に中国語を勉強してくれる日本人の同学もいましたし、高校、大学と私に中国語を教えてくれる先生もいましたから、比較的恵まれていた方かもしれません。
私が生まれ育った町は政令指定都市なので、まだ中国語に興味を持っている人はいました。しかしこれがもっと地方だったら、一人で中国語を勉強しなければならなかったはずで、とても孤独だったのは間違いありません。
そういった意味で、同じ「中国語学習者」という共通点だけで日本全国、ひいては世界中の同志とつながることのできるSNSというのは画期的だし、そういった「自分よりも上の人」と出会うことで刺激やモチベーションをもらうことができる最高のツールだとも言えます。
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しかし、SNSは外国語学習者にとって「魔法のツール」と言うわけでもないと私は思っています。それは「情報の取得があまりに簡単にできてしまう」ということ。
先も述べたように、SNS上には数多くの「賢者」がいます。「あれってどういう意味?」「日本語でこれってどういうんだっけ」などなど。「X」にしても、知恵袋にしてもこの類の質問であふれかえっています。そのたびに「賢者」が出てきて答えるんですが・・・
これって学習者にとっては百害あって一利なし(まぁ意味が分かった点で言うなら「一利」はあったかもしれませんが)と言えると思っています。
なぜか。外国語の習得で重要となってくる「アウトプット」「インプット」がまったくないんですよね。
意味やニュアンスを知るために「資料を調べる」とか、「実際にその場面に遭遇して自分で使う」といった経験やプロセスと言うのは非常に重要です。SNSのなかった時代は、「自分で図書館に行き」「自分でリアルに人に聞いて」やっと理解できたわけで、かなり煩雑だったわけなのですが、そのようなプロセスを経て知った語句は簡単に忘れることはなかったと私自身の体験談として言えます。
私はそれに加えて、知り得た語句の情報を「人にぶつけて反応を見る」といったひと手間を加えることで、語句の意味を確実に自分の頭の中にインプットできていました。
しかしSNS上で聞いてすぐに答えを得られる今は、そういうプロセスをすっ飛ばしてしまうわけで、答えを得たその場では分かった気がしても1か月後、数年後に使う場面が来た時にその語句がすっと出てくるかと言えば疑問と言わざるを得ません。
加えて言えば、ネットの「賢者」が教えてくれた知識が本当に正しいとは限りません。実際に実地で自分で使ってみて、反応を得て初めてその語句の意味が正しいことを知るのです。SNSは便利であるがゆえに、そのようなプロセスを忘れてしまいがちです。自分で必ず実地で「インプット」「アウトプット」を心がけるようにしなければなりません。
さらにSNSには、中国語学習者特有の問題もあります。それは中国情勢からくるモチベーションの維持の難しさです。
ご存じのとおり、SNSにはさまざまな中国、中国人にとってネガティブな情報があふれています。もちろんその中ではウソの情報もあれば、本当のものもあります。中国人のマナーの悪さや中国政府の日本に対する理不尽な言動などなど。SNSを開けば、そのようなネガティブな情報を目にせざるを得ない状況しかないでしょう。福島の処理水問題など、中国政府が大々的な反日キャンペーンを張った時など、これまで私も数々の難しい状況を経験してきました。
皆さんもそのたびに中国語に対するモチベーションがそがれることは容易に想像できます。
ただ中国政府が発信する情報は情報リテラシーの問題なのでここでは多くは語りませんが、少なくとも、中国人個人のことについてはSNSで発信されていることがすべてではありません。一般的にSNSに投稿されている動画で狼藉を働いている中国人は数ある中国人の中のごく一部だからです。
「一体中国人は日本人に対してどのような感情を抱いているのか」「私は中国を好きになれるのかどうか」。
このような疑問を解くには自分で中国に行ってこの目で確かめてみるしかありません。ぜひSNSの中に閉じこもるのではなく、自分で実地で中国の生活を経験することをおススメします。中国語を続けるかどうかは、それからでも遅くはないでしょう。
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ここまで来て中国語学習者の皆さんはSNSとの付き合い方について、理解できたのではないかと信じています。SNSに依存するのは考えもの。かといってせっかくSNSと言う便利ツールがあるのですから利用するのはぜんぜんかまいません。要するにSNSとはつかず離れずの関係がやはり中国語学習(外国語)にとって一番ではないでしょうか。