中国語のニュース記事に見る、言外に別の意味を持つ語句
中国語にはそれ自体がもともと持っている意味(いわゆる辞書で調べられる意味)の他に、別の裏の意味を持っている語句が結構存在します。中国語のニュース記事にもたびたびそのような語句が出現し、翻訳者を悩ませています。そのような語句が最も多く見られる記事のジャンルとして、社会ネタがまず挙げられるでしょう。
ご存知かとは思いますが、中国では各地で社会ネタになる事件や事故が多発しています。その中でも私たちが注目するのはやはり、大衆がデモを引き起こしたとか、都市の管理局の職員が住民とトラブルを引き起こしたといった記事なのではないでしょうか。
昔はこのようなデモや抗議活動に関する記事というのはほとんどありませんでしたが、中国の昨今の報道規制の若干の緩和に伴い、かなり目にするようになりました。最近では最も記憶に新しいのは香港の民主化デモのニュースでしょう。
香港の民主化デモのニュースは多くの西側メディアが報道するところとなっており、かなり直接的な表現が多くみられました。
しかしやはり大陸でのデモや抗議活動の場合は、報道統制がいまだ残っているのか、あからさまに「大衆」が「示威活动(デモ活動)」した、といった記事はほとんどありません。その代わりに、「オブラートで包んだ」言い方が多いのです。このため、訳出するときに、このニュアンスを出すのが非常に難しい。
例えば、デモ関連の記事でよく出てくる言葉に「肢体冲突」があります。これは私は一般的に「小競り合い」と訳しているのですが、実際には「打架」と同じと考えてもよいでしょう。
デモ主宰側と警察側が「肢体冲突」したという文があった場合、これは字的には「小競り合い」のなのですが、実際には警官が棍棒をもってデモ主催者や大衆に殴りかかり、大衆がそれに応戦すると言う場面であると言えます。
「聚集」と言う言葉。辞書で引くと「集会」という語句しかないと思います。しかしここでは、実質上「抗議をする人たちが集まる」「抗議集会」という意味合いで使用しています。
「对峙」と言う言葉。そのまま「対峙(たいじ)」と訳してもいいのですが、これでは中国語のニュアンスが出せません。実際には「(一触即発の状態で)にらみ合う」という意味なのです。
「围观」という言葉。これは周りを取り囲んで「野次馬で見る」という意味なのですが、中国語のニュアンスを伝えると言う意味では今一歩と言う感じです。「(周りを取り囲んでいる人たちが冷ややかな目で)見る」という意味合いで使われています。
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社会ネタと言えば中国共産党特有の用語は欠かせません。
まずよく見るのは「约谈」という語句。字面通りに訳すならば、「約束の上で話し合う」という意味ですが、企業が違法行為をした場合に行政部門が企業と「约谈」したというニュースは、ニュース翻訳者の人ならば良く見かけると思います。この場合の「约谈」は「約束の上で話し合った」のではなく、行政部門から「行政指導を受けた」と訳します。同じように警察と「约谈」された場合は、「事情聴取を受けた」と訳すわけです。
また類義語としては「交谈」があります。字面通りですと「話し合う」ですが、これも行政部門や警察から「聴取を受けた」という意味になります。しかし強制力は「约谈」ほどではないですね。
他には「检讨」「检查」と言う言葉。字面通りには「検討」「検査」なのですが、自身が失敗やミスを犯した場合に「自己批判する」といった意味に使われます。皆さんも、学校や職場で「检讨书」を書かされたと話す人を見かけたことがあるかもしれません。この場合の「检讨书」は「検討書」ではなく、「反省書」「始末書」と訳すことになります。
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同じように言外に意味を持つ語句として有名なのは外交用語にもなり得る「约见」「召见」でしょう。この「约见」「召见」の言外のニュアンスの違いは、以前の別のnoteでもご紹介しました。
このように言外に別の意味を持つ語句はほかにもたくさんあります。皆さんも見つけてみてはいかがでしょうか。
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