見出し画像

「留抵退税」とは何か

最近中国メディアで度々目にしているにもかかわらず、なかなか分かりにくい言葉に、「留抵退税」があります。李克強国務院総理も、今年3月に開催の全人代会議で発表した政府活動報告の中で言及しており、中国メディアを注目している人は一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

この「留抵退税」を日本語でどう訳すかは最近、私の中で悩みの種になっております。そこで今回は「留抵退税」の概念から掘り下げて解説していきたいと思います。「そんなことする必要があるの?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、これは「訳語を考えるにはその言葉の意味を十分に理解することから」という私の考えからでもあります。

ただ、私の読者の中には中国で会社を経営していらっしゃる方もいるかもしれません。そういう方には「何を分かり切ったことを」と思われるかもしれませんが、今回の記事のコンセプトは、語句の意味を理解して翻訳につなげるというものなのでどうかご理解下さい。また、「それ違うよ」と思われた点については、当noteのコメントなり、ツイッターなりで教えていただければ幸いです。

増値税とは何か

「留抵退税」という言葉を理解するためにはまず、中国独特の税金である「增值税」の仕組みから理解する必要があります。

この「增值税」なのですが、これは日本語では「付加価値税」と訳され、言葉通り物を売り買いする際の付加価値(平たく言えば儲けですね)にかかる税金とされます。

ただ注意しなければならない点があります。それはこの「增值税」は「物の販売利益」に対して税率がかかるのではなく、「物の販売金額全体×税率」で計算されるということです。ここはとても理解しにくいところですよね。基本税率は17%で、特定の品目の税率は13%となっています。

仕入れ税と販売税

一方でほぼすべての中国国内の企業(国内に限らず世界中ではありますが)の経営は、「原材料を購入」→「加工」→「下流の企業に販売」というフローで成り立っています。つまり、「他企業から原料を買い入れて」「次の企業に売っている」わけです。この過程で「增值税」が発生しているのです。

例えばA社がB社から400万元の原材料を購入して、C社に600万元で売ったとしましょう。

画像1
https://www.shigaplaza.or.jp/chugoku/bz/d-3.html

その場合、A社がB社から購入した原材料400万元に対して増値税68万元が発生します。A社はB社に対して、原材料費+「增值税」の468万元を支払わなければなりません。この68万元の増値税を日本語では「仕入れ税」といい、中国語では「进项税额」と言います。

一方A社がC社に販売した600万元には、「增值税」102万元が発生します。C社はA社に対して600万元+102万元の702万元をA社に支払わなければなりません。この102万元の「增值税」を日本語では「販売税」といい、中国語では「销项税额」と言います。

で、A社は増値税としていくら政府に支払うべきなのかというと、
「販売税(销项税额)」-「仕入れ税(进项税额)」を政府に納付することになります。この場合、A社が政府に支払うべき「增值税」は

102万元-68万元=34万元

となります。

輸出による税還付

一方で中国政府は最近、さまざまな税金優遇政策を行っています。その一つが輸出による税還付というもの。
これは国内で仕入れたものを加工して外国に輸出した場合、「販売税」は免除されるというもものです。

先ほどのA社、B社、C社の例で言うと、仮にC社が外国の企業で、A社が輸出した場合は、「販売税」がゼロになることになります。これにより、納付すべき「增值税」の公式は

0元-68万元

となり、-68万元になってしまいます。
このため、B社を通じて先に政府に納付した仕入れ税68万元は返還分として、政府から還付されることになります。この還付行為を中国語で「留抵退税」というわけです。

では「留抵退税」をどう訳すか

「留抵退税」は中国独特の制度であり、一言でそのまま訳すことはできません。あえて訳すなら、原文併記で

「留抵退税(納付済みの増値税の優遇政策による還付)」

ぐらいでしょうか。もし他にアイデアがあったら、教えていただければと思います。

参考文献


いいなと思ったら応援しよう!

明天会更美好
サポートしていただければ、よりやる気が出ます。よろしくお願いします。