【掌編小説】リレー小説②(これってひよこの挑戦状?)#電車にゆられて
ひよこ初心者さんの続きです。
気づくと一軒の平屋があった。近くを流れる細い川に水車がカラカラと音を立てて回っている。その水車のそばにいた女性が立ち上がり、笑顔で俺に手を振る。
「おかえり。早かったわね」
「ただいま、◼️◼️」
馴染みのある人物だと、脳が勝手に受け入れた。彼女の顔ははっきりとわからない。名前を知っているはずなのに、頭の中で言葉を組み立てようとすると空気のようにふわりと散っていく。それでも口を開いて言葉にならない残骸を集めて彼女に渡してみると、彼女はにっこりと笑った。
「なかったんだ、切符」
「そっか」彼女はふぅと息を吐く。「よかったわね」
「なんでよかったなの?」
彼女はにやりと鋭く口角を上げ、
「地獄への片道切符だから……なんてね」とぷっ、と吹き出す。
「切符がどこへ行くのか知らずに列車に乗るのはよくないから。知らないでしょ?」
言われて、自分がどこへ向かおうとしていたのか、それすらわからなかったことに気づく。
「死ぬ権利なのよ、それは」声は暖かいのに、刃の冷たい言葉が俺に刺さった。
「死ぬ権利……」
「君が持っているはずの切符を使えばあの列車は君を死へと運んでくれる。多分生きるか死ぬか、どっちつかずだからどこにしまったかわからなくなったのよ」
彼女は細く白い人差し指を俺にすっと向けた。
「君、生きたいの? 死にたいの?」
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