【Dungeon Dice aDventure】の構築:サイコロを振るのが楽しいゲームブックをつくる
久しぶりに同人ゲームブックを作った。
今回も色々考えながら作った結果、まだまだ発展の余地がある面白いシステムができたように思うので、その設計プロセスを書き記しておく。
システムの話がメインでネタバレは無いので未プレイの人も気軽にどうぞ(興味を持ったら買ってプレイしてみていただきたい。自信作なので)。
仮説:デジタルに勝つにはサイコロを使うべし
『ゲームブックがデジタルのゲームに勝つにはどうすればいいのか?』
について、ずっと考えていた。
デジタルゲームにアナログが真正面から太刀打ちするのは基本ムリだ。
音楽、映像、アクションなど、デジタルは複数の表現手段を有している。
肝心のゲーム性についても、デジタルでは数値をアルゴリズムで処理できるため、速度や快適さでは勝ることができない。
じゃあ何で勝てばいいのか?と考えた時に、周りを見回して気付く。
ゲームブックはさておき、アナログゲームが今の時代に流行っている一因は、その『シンプルさ』にあるのではないか。
誰も彼もが複雑なゲームをやりたがっているわけではない。
シンプルなゲームにのめり込んでいるうちに、いつの間にか複雑な世界に迷い込んでしまっているものだ。
じゃあゲームブックが提供できるシンプルな面白さとは何なのか?
あれこれ考えた上で、解の一つに思い至る。
サイコロを振ることの楽しさだ。
サイコロはカードや駒と並ぶアナログゲームの象徴的なアイテムだ。
振った目が大きければ強く、小さければ弱い(またはその逆)。
リスクとリターンの関係が分かりやすく、何よりサイコロがカラコロと音を立てる感じや振る前の緊張感はアナログでしか味わえない。
「サイコロを振る」という実体験についてだけは、いくらデジタルと言えど、アナログに勝てないのではないだろうか。
……という仮説を基にして「サイコロを振るのが楽しい」をコンセプトにシンプルなゲームブックを作ってみることにした。
基本思想:サイコロの運否天賦さを活かす
始祖『火吹山の魔法使い』の時代から、サイコロを使った戦闘システムはゲームブックに採用されてきた。
例えば『火吹山の魔法使い』では、
『サイコロを2つ振って出た目の和が一定以上に達していれば敵に2ダメージ。そうでなければ自分側に2ダメージ』
と、攻撃の成否判定に用いられている。
この方法だと真ん中の7が一番出やすく、最小の2や最大の12に近づいていくにつれて出る確率が下がっていく緩やかな確率分布となるため、運の要素はあるものの、弱い敵には勝ちやすく強い敵には負けやすい「程よい」ゲームバランスとなる。
とても優れた戦闘システムだと思う。
ただ、このシステムはあくまで戦闘を表現するための乱数発生装置としてサイコロを活用しているだけに留まっている。
サイコロを主役に据える本作では、最大と最小で6倍も数が違うサイコロ本来の運否天賦さに向き合うべきだ。
例えば、いただきストリートや桃鉄などすごろく系のゲームでは、サイコロの出目がマス移動の数という結果に直通する。
1が出ると本当にガッカリするし、6が出たら気持ちがいい。
この数字のバラつき加減をそのままRPGの戦闘に盛り込みたい。
というわけで、主人公の攻撃判定をこう仮定してみた。
【攻撃力】
1の目→攻撃力1:攻撃失敗。がっかり
2の目→攻撃力2:だいぶ微妙な攻撃。ないよりはマシ
3の目→攻撃力3:んー、良くはないけどまあまあかな
4の目→攻撃力4:お、なかなかじゃん
5の目→攻撃力5:ラッキー♪
6の目→攻撃力6:クリティカル! 気持ちがいい!
この攻撃力そのままの数値を敵にダメージとして与え体力を減らす。
すると、一回の攻撃で与えるダメージの期待値は3.5点。
対してクリティカルの6点は期待値の1.7倍以上のダメージを叩きだす。
これはシンプルかつ直感的に気持ちがいいはずだ。
余談だが、ラーメンコンサルティングの本にこんな話があった。
人間は数字が1.3倍になるとその差を実感し、1.7倍になるともはや別物に感じてしまうという。
例えば普段500円で食べているラーメンが650円(1.3倍)や850円(1.7倍)に値上げしてしまった時の気持ちを考えればイメージしやすいはずだ。(逆に390円や300円に値下げした時も考えてみてほしい)
5や6を出した時の気持ち良さは、人間の心理に適っている。
この「良い目が出た時の爽快感」を出発点にシステムを構築する。
戦闘:攻撃でいかに火力を叩き出すかのゲーム
サイコロを振る楽しさ≒5や6が出た時に大ダメージが出せる気持ち良さを殺さずにRPGのシステムを構築するにはまず、サイコロの運否天賦さが絡む領域を限定するべきだ。
上では『攻撃』にサイコロ要素を適用したが、『防御』にまで運否天賦さを盛り込むのはマズイ。
上の攻撃力表を雑魚敵にまで適用してしまうと、
『主人公が1を出している間に敵が6を二連続で出して死亡!』
みたいなことも起こるだろう。
そうなれば、プレイヤーは二度と遊んでくれない。
ゲームブックやTRPGでは死が重い。
デジタルゲームは自動で状況が死亡前にリセットされるが、アナログでは自分で数値を元に戻したりしないとならない。
プレイヤーはその時点で面倒くさくなって本を投げてしまうだろう。
ゆえに、本作における死は原則的にパーマデス(永久死)だ。
よって突然死などのリスクを避けるためにも、防御には剥き出しのサイコロ要素は採用しない。
ただし、敵の攻撃力が一定なのはつまらないので、例えばBOSS戦などでは
【BOSS】ドラゴン(体力点:20)
1の目→攻撃力0:大ぶりな攻撃。躱すのはたやすい
2の目→攻撃力1:爪攻撃。盾で防御できるので被害は軽微
3の目→攻撃力2:炎を吐く
4の目→攻撃力2:炎を吐く
5の目→攻撃力2:炎を吐く
6の目→攻撃力2:炎を吐く
のように攻撃力の上限にキャップを設けてバラつきを小さく抑え、むしろ相手がミスをしてくれたラッキーさを大きく感じられるように設定するのがよいだろう。
以上のことを考えると、
『敵の攻撃(攻撃力は一定)でこちらの体力が減る前に、いかに高い火力の攻撃を叩き込んで気持ち良く勝ち切るか』
が焦点となる、攻撃重視の戦闘システムになるだろう。
成長:最大火力を取るか、安定を取るか
攻撃力をサイコロの目に直結させたことで、思わぬ副産物があった。
プレイヤーの運へのスタンスを育成に反映させることができたのだ。
本作では装備品の概念を失くし、代わりにサイコロの成長ボーナスやその取捨選択という形で成長・カスタマイズ要素を表現した。
例えば、
成長ボーナス『経験』
効果:入手時に好きなサイコロの目を1つ選び、その攻撃力を+1する
のように、1の目を強化して攻撃失敗のリスクを補ったり、逆に6の目を強化して最大火力をさらに伸ばしたりすることができる。
さらには、
『サイコロの目2つを選んで攻撃力を+2する』
or
『一回の戦闘につき一度まで攻撃のサイコロを振り直す権利』
とか、
『好きなサイコロの目を2つ選んで、それぞれの攻撃力を+2する』
or
『サイコロを1回振って出た目の攻撃力を+3する』
など、リスクと数字を天秤にかけて提示していくことで様々な思考を迫ることができる。さらにコンボで高い火力を叩き出す方法などを成長にちりばめていけば、より爽快感や射幸心をあおるゲームになるだろう。
要素:探索は削ぎ落としてローグライト?に
私はゲームブックのダンジョンマップを設計するのが大好きだが、今回は探索要素を削ぎ落とし、パラグラフ分岐も最小限に抑えた。
そもそもゲームブックでの探索はデジタルゲームのそれと比べて圧倒的に面倒くさいし、おっかなびっくり死に怯えながら危険地帯を歩き回る感じは、サイコロ任せの楽観的なゲームコンセプトにはちょっと合わない。
よって、削る。
サイコロで敵をぶっ飛ばすことに関係しない要素は片っ端から削った。
また、成長要素やコンボを盛り込むことで敵に与えるダメージはインフレしていくだろうから、そのインフレに見合った体力を持つ大型BOSSを各所に盛り込み、数字の大きさを楽しむために防御力の概念も導入するのをやめた。
あと、当初は魔術の概念が存在したが、「限りあるMPを消費して高い効果を得る」という魔術の在り方とサイコロを振るゲーム性とがあまりマッチしないことがテストプレイで分かってきたので、アイテムに統合した。
最後に
色々書いてきたが、実のところこの試みがゲームブックとして目新しいものになるかはよく分かっていない。
ある程度下調べはしたが、既存の作品と一切コンセプト被りが存在しないことは証明ができないからだ。
それでも、面白さの核を一から決めて構築したゲームには価値が宿るはずなので、自信を持って世に出していこうと思う。
『Dungeon Dice aDventure -竜の笛-』Amazon Kindleにて発売中。
ぜひお手に取っていただければ幸いだ。