友人とストリップへ行ってみた日のお話
ひんやりと冷え始める11月の終わり、風はひんやりと吹き出し、朝夜はぐっと寒くなっている。日もすっかり沈んだ。朝から皇居の中に散歩できると聞き、ゆったり優雅に散歩し、美術館で鑑賞した後に、美味しい焼き肉を頬張った。久々のユッケは美味たるものだった。これで帰るのなんか物足りなくないかと話すと、ストリップ気になるんだよねみたいな話が持ちかけられた。「いいね、今から行こうか」の一言で向かう。
17時なのか19時なのか分からない空の色。区役所通りから新宿ゴールデン街に入る路地の脇にひっそりとストリップ劇場が構えている。ネオンはついていなく、人の出入りも見えない。そんなお店は、まだやっているすら分からない。入口らしき地下に向かう階段には電気が付いている。だめ元で行こう。友人と力強く降りた。
降りてみれば、そこには映画で見る、ドラマで見る地下アイドルのステージの入り口のよう。チケットを買うにも、窓が低く、店員さんの顔が見えない。ちらっと来る他の店員が「3000だよ、女は3000」と言う。私たちは3千円を出し、おもちゃみたいな入場券というものをもらった。その後は適当にどうぞと言った空気。正直何すればいいのかわからない。ただ変な緊張が続く。券売窓口のそばには何か売っていた。そのときはまだ何も知らなかった25歳女性の2人はこの1時間で知る事すらなかっただろう事を学んでいく。
大きな扉の前に常連客らしき男性が数人屯っている。扉の向こうから怪しげな音楽が聞こえる。出入り自由と書かれているが、入ってもいいのか戸惑う。それを見かねたのか、普通に入ろうとしたのか、知らないおじさんが入っていくのをついて行って入ったら、客席いっぱいの若老男女がいた。しかも熱狂し、つんと鼻につくチューハイとビールの空き缶の特有の匂いで充満していた。
観客一人一人に推しがいるそうで、かなり熱狂し幸せそうな何かの物体を発しているような場所だった。ただこの場所で、全裸の女性がステージの上でパフォーマンスをし、踊り狂っていた。なんだか不思議な場所。社会から見捨てられたのではなく、隠そうとしているが、それを糧に生きている人々の匂いもした。家族を持っているだろう、昼間は全く違う顔で生きているのだろう、この瞬間の興奮のために生きているのだろうか。私はかなり圧倒された。ストリッパーの方々は食べるためにやっているのだろうか、悦びのためにやっているのだろうか、楽しんでいるのかなと思いつつ、眺めている。
日の当たる場所で働くことがすべてではなく、こうやって社会から目を逸らしたくなる世界で働く人々も日の当たる場所に負け劣らない。熱狂している観客の日常も気になっていた。私がいつも歩く、神保町、大手町、渋谷、地元でも見かけない方々ばかり。こういう場所しか存在していないのかと錯覚するくらいだった。彼らの人生、彼らの日常についてももしかしたら普通なのかもしれない。でも聞いてみたいし、ついて行ってみたくなってしまう。不思議な魅力があった。
ストリッパーのパフォーマンスはそれぞれのユニットというかグループがあり、それぞれのコンセプトがあるそうだ。共通するのはどれも艶めかしいが、花が咲けば、艶めかしさはどこかへ消えていく。ただ下品ではないのが不思議でたまらなかった。下品とそれは紙一重だった。公演が終わると、客はいそいそと売店に行き、何かを買い、女の子たちの前に並んではそわそわしている。あれは、何かを買うと一緒に写真を撮れたり、女の子たちにポーズなど指定して写真が撮れるファンサの一種の何かだと分かった。それだけでも30分くらいあり、その次の公演が始まるまで待たないといけないそうだ。なるほど、学んだ。待合室のような場所には小さなテレビが1台置かれていた。そこで写真を撮り終えた方々が、いそいそと、ワールドシリーズのヤクルト対オリックスの延長戦に必死に張り付いていた。どうなるんだろう、オリックスだよと言えば、ヤクルトじゃんと言う。出入りの激しいドアの前で邪魔にならないように私たちはひっそり待った。その間の人間観察はすごく面白かった。
みんな何かに固執しているようにも見え始めた。過去に固執しているのか、その場所自体なのか、その場所の空気なのか、よく分からなかった。別次元の世界に来たような気分にもなった。
次のショーはなんだかかわいらしさを儚くさせたようなステージだった。少女から結婚式までのような雰囲気で、父親気分を味わさせるようなものに近いのだろうか。それは決して違うが、それに近しい何らかの感情を訴えかけているのか、よく分からないけれど、そこも花が咲いた。ここは花が咲くのが好きなのかというくらいに咲いている。そのショーが終わればまた撮影会。時間ももう遅い。刺激も結構受けたし、そろそろ帰ろう。地下から抜けて、外に出ると、また違った視点の歌舞伎町がいた。ネオンばかりじゃなかったんだ。歌舞伎町は他のどこの町とは違い、不思議なものに包まれているようだ。どんな人でも引きずり込み、底まで落とし、そこから出られないような人に育てられているようにも感じる。
ネオンのついていない入り口