zoom会議『国連はなぜ日本に特別支援教育中止を勧告したのか』に参加して


9月9日に国連障害者権利委員会が日本政府に対して
特別支援教育中止を勧告したというニュースが流れました。

この勧告に至った経緯は、日本の障害者団体が人権委員会に
パラレルレポートを提出し、日本の現状を訴えたことがきっかけ
となっています。

パラレルレポートとは、日本政府から権利委員会に提出される報告書
とは別に当事者・研究者が直接、権利委員会に独自で提出する意見書
・報告書のことです。
どういった団体が提出できるのかという制約はなく、HPから手順に
従えば誰でも意見できる制度になっているとのことでした。

今回のZoom会議はパラレルレポートを提出した団体に関わった東京大学
教育研究所付属バリアフリー教育開発研究センターインクルーシブ教育
定例研究会が主宰して、9月23日に行われました。同時接続者は
1200人ほどでした。

提出されたパラレルレポートのうち、インクルーシブ教育について
訴えたのが全国連絡会&公教育計画学会、インクルーシブ教育情報室、
TOYONAKAWAKATSUDOの3団体で、一木玲子さんが報告されました。
その要約が下記です。

①文部科学省は特別支援学校・特別支援学級を指してインクルーシブ教育と言っている
(障害者権利条約では障害を理由とした区別・排除・制限は差別とされている。)
②早期発見、早期支援が分離教育のために行われている
③分離教育が強化されたため特別支援学校や特別支援学級で学ぶ生徒数が増加している
④特別支援学級在籍児童生徒は週の授業時数の半分以上を特別支援学級で学ぶようにと
2022年4月27日に文部省からの各教育委員会に宛てた通知は分離教育を助長している
⑤通常級への異動を教育委員会に拒否、侵害され裁判で争っているケースがある
⑥保護者の付き添いが強制されている自治体があるなど合理的配慮の保障に格差がある
⑦高校入試が知識偏重で定員内不合格があり、高校教育を受ける権利が保障されていない
⑧教員の養成や研修の内容が医学モデルであり、人権モデルではない

パラレルレポートを提出した団体と文科省、国連の人権委員会が
8月22日、23日にジュネーブにて会合が開かれました。
その経緯を佐藤雄哉さんが報告されました。その要約が下記です。

権利委:特別支援学校等の生徒数が増加し、分離教育が強化されているのでは?
文科省:特別支援学校等で段階的な合理的配慮が得られる教育を受けられている
    ※やりとりがかみ合っていない。
権利委:4.27通知を廃止するためにどのような措置をとっているか?
文科省:無回答
権利委:特別支援学校・学級による分離教育の廃止と予算付けをどうするのか?
文科省:無回答

権利委員会からの勧告
①特別支援学校・学級による分離教育を廃止するように。
②予算を付けて質の高いインクルーシブ教育を実施するように。
③半分以上の時間を支援級で過ごす通知は問題がある。4.27通知は廃止するように。
④教職課程において、人権モデルの意識を育むように。
⑤知的障害であっても理解しやすいようなEasy Readを用意するように。
⑥知的障害であっても高等教育を受けられるよう配慮するように。

※勧告を履行しなかった場合のペナルティはないとのこと。

報告の後、簡単なブリーフィングが行われました。

大空小学校 木村校長より
「自律が必要。子どもに支援学校は存在しても、大人になって
から支援社会はない。他者と適度に依存しあえる関係性を築くこと。
個性を長所にかえる教育が必要。」

ある障害当事者より
「お願いする力があれば生きていける」

ハフィントンポスト金記者より
「元学級保証をしている大阪市大阪府の対応を文科省が問題視し、
4.27へつながっている」

※主催者とのつながりがないかたの質問や意見は
取り上げられていませんでした。

<雑感>
インクルーシブ教育は最終的な理想形ですが、
昭和50年代に特別支援学校が設置される以前は、
障害者は家庭の中に閉じ込められ、社会から隠される存在
でした。校舎を立て、教員を配置し現在の形になっています。
予算措置でいうと1人当たりの費用は通常級の8倍相当
とのこと。

「希望する人が全員通常級で学べる権利を保障できなければ
特別支援学校や特別支援学級は必要ない」という一木さんの
主張は、極端な主張のように感じました。

通常級で適応できるための合理的配慮の内容や移行プロセス
は未だ確立されたものがあるわけではなく個別的で試行錯誤
の段階ですので、すべてのケースについて
「できるものを履行していない」とまで言い切れる段階には
至っていないと思います。

そういう状況の中においては特別支援学校や特別支援学級
での教育や支援は一定の効果や意義はあるはずなので
全否定は、文科省からすれば稚拙な主張と捉えられて
しまいます。実際に文科大臣は「特別支援教育は中止しません」
と反応しています。

文科省だけではなく、Zoom会議に何人かの方が書き込んで
いた意見や質問には、特別支援学校などの
取り組みを軽視するかのような意見に対して賛成ではない
といったスタンスの方も相当数いらっしゃったような
印象です。私も同じ立場です。

必要なことはインクルーシブへ向かっての妥協点、
落としどころ前進させることのはずです。

もしかすると
日本で意味するところの教育と国際社会で言われている教育の
意味することが必ずしも一致していないのではないでしょうか。

国際社会における教育とは知識や知的好奇心、人類の英知に
触れる機会のことであり、それが習得できるかどうかは2の次
のような印象を受けました。極端な例かもしれませんが、
美術館での鑑賞やホールでの音楽鑑賞、レストランでの飲食、
図書館での閲覧などを障害を理由に断ることは差別である
ということと同義と捉えているのかもしれません。

他方、日本における、学校で行われている教育とは、
まさに大空小学校の木村校長先生が主張されていたとおり
「教育は社会につながる能力を習得させていくこと」
なのだと思います。私もこの意味合いで教育をとらえて
います。

このような教育の定義ずれがあるとすれば、確かにそれぞれの
主張は平行線になることはうなずけます。

こういうことは教育に限らずどういった分野でもありうる
話しではありますが、1つ残念というか、大きな課題である
というべきものがあると感じます。それは、何かを主張したり
議論するに当たっては、当然こういった「差異」が存在して
いるということに自覚的である必要があると思いますが、
今回パラレルレポートを報告してくださった方々の主張から
こういった差異に関して自覚的であったとは感じられなかった
ことです。

パラレルレポートは誰もが発信できることについて、今回
はじめて知りましたが、そうはいっても、私たちのような
現場サイドから国連や文科省に意見するまでのエネルギーや
時間的な余力もないことから、誰かがなんとかしてくれるはず
だと、一部の研究者や団体に頼り切るというか任せっぱなし
にしすぎてしまっていたのではないかと反省しています。

任せるなら任せるで、対話や情報提供、金銭的な支援といった
ことも含めてしていく必要があったように感じました。

「お殿様に直訴してやった!」では本質的な改善には至り
ません。国連に物申す前段として、国内においても、
研究者や現場、制度設計(政治)が特別支援教育の「現在地」
をしっかりと共有しながら課題点を共有していくという作業
をしなければならなかったのではないでしょうか。

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