忘れられた打ち上げ花火:第2話
ゆりさんは
どんな人と結婚したい?
そうね
わたしと同じ味のアイスが
好きな人かしら
そう答えたら
あなたは優しく笑っていた
***
あるオンラインゲームの仮想世界
新大陸への冒険の出発地点である、港町
この町の一角には鍛冶ギルドがあった
わたしたちはこのギルドで
ふたり道具職人としてミニゲームをしながら
高度な素材アイテムを創り出していた
バトルしてモンスターを倒すだけが
オンラインゲームの楽しみじゃない
アイテム同士を組み合わせて
新しい素材アイテムを創り出し
それを競売にかけて他のプレイヤーに売っていく
こうすることで
ゲーム内のお金を稼ぐことができるの
<< プライベートビーチにはね、お庭用の大きなリゾートベッドを置いて、ビーチチェアでしょ、それにかき氷も並べるの
熱そうな溶解炉を前にしながら
ひたすら鉱物片に向かって
ハンマーを打ち下ろし続ける仮の ”わたし”
現実世界でも蒸し暑い夏を迎えていた
>> すごい庭になりそうw ゆりさんの好きにしていいから
<< 嬉しい! 楽しみね
その隣で同じように
ハンマーを打ち鳴らしながら
ガッツポーズを取る仮の ”あなた”
どうやらうまく素材が出来上がったよう
まるで新築の戸建てを買う時のように
新しい部屋に家具を置くイメージがあふれ出す
新しい自分たちの空間を作り出す喜びと期待に
ワクワクが止まらない
あなたは仮想世界で土地を買う
それも小さな町一つ分ほどの広さを持つ
最高級の住宅地
価格は2億ゴールド
いくら仮想世界といえども
だれでも簡単に購入できるものではない
プレイヤーの輝かしいステータスの一つ
最高級の住宅地に興味ないと言っていたあなたが
突然土地を買うと言いだしたのは
ちょうど1ヵ月程前だった
*
わたしは毎日の日課として
鍛冶ギルドでハンマーを打ち鳴らしながら
素材アイテムを創り出していた
>> 俺も道具職人のレベルを上げているから
隣で一緒に叩いてもいい?
いつの間にか、隣にはあなたがいるようになった
ずいぶんなつかれたものね
初めはそう思っていたけれど
パーティーを組んで
お話をするようになってから
あなたに興味を惹かれるようになる
>> 俺、今アイス食べてる
<< へぇ、チョコでしょ
>> え、ゆりさんなんでわかるの?!
あなたがレディーボーデンのチョコレート味のアイスが好きだってこと
もう記憶から消えることはないでしょう
お互いの好きな食べ物の話から始まって
音楽の話、恋愛の話、友達の話
夜通しチャットし続けた日もあった
>> ゆりさんも、レディーボーデンのチョコ食べてよ!絶対美味しいから
<< そうね、今度買ってくるわ
それまでわたしは
レディーボーデンのアイスを
食べたことがなかった
音楽を聴く習慣もなかった
再び恋をしようなんてことも
思ってはいなかった
わたしが今まで出会ったことのない
考え方を持っているようで
あなたの話はすべてが新鮮だった
>> 今度俺の家で、道具職人のレベル上げようよ
そう誘われたけれどもすぐに断った
<< 素材を売る競売も、材料を買うための素材屋も近くにないから、あなたの家でレベルを上げるのは効率が悪いわ
もっともな理由を突き付けられて
あなたは反論なんてできなかったんじゃないかしら
そう思っていたら
>> じゃぁ、最高級の住宅地を買うよ!そこなら素材屋も競売も近くに設置できるだろう
その2か月後
まさか宣言通りに
あなたは2億ゴールドを稼ぎ出して
土地を購入した
>>> 第1話はこちらから
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