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愛してるってなんだっけ 好きな人に言う言葉だよ 好きな人って彼氏のこと? いつかできるかな わたしは男がきらい 将来の旦那様になるひとに 愛してるって言うのかな 言いたいと思う? でもわたし 本当に好きな人に 愛してるって言えなかった なぜなら 愛してるって 言われたことがなかったから ***
アリスは ”たいくつ” していた 毎日同じことを繰り返すだけの 刺激のない現実世界に 貪欲な好奇心は ためらわず冒険を突き進むための 原動力を与え やがてもとの世界へ戻るための 道しるべを奪い去った ***
一度装備すると二度と外せない 死の指輪 無理に外そうとすれば 装備もろとも崩れ去る それは ゲームの仮想世界に囚われる 呪いだった *** 初めてのネット回線を繋いだ オンラインゲームは 両親に許可をもらって バイトの先輩に教えてもらいながら 自分でインターネット契約するところから スタートした 回線を繋げるのも大変だったけれど ゲーム機器にソフトをダウンロードして インストールすることさえも 丸1日がかり 学校が終わって帰宅しても まだ画面はインストール中の表示
明るくて前向きなあなたに 歪んだ愛は似合わない 捻れた恋も似合わない どうかこの一年の出来事は 現実から切り離された ゲームの世界だったと 夢の中に押しやって 大学で 社会で 素敵な恋愛 見つけて欲しいの 一途にずっと ひとりの人を愛せた事って 中々幸せだったよ そういう幸せを あなたには感じてもらいたいと 願う ***
眩い光に群がる無数の夏の蛾 払っても払っても ひらりと再び舞い戻る どれだけ強く輝こうが 太陽の下を飛ぶ蝶は 絶対に近づくことはないのだから ***
しとり しとり あまつぶひとつ 重んじる あまりに あながあく 断てない 命雨の連鎖よ やすらかに 明日こそ わたしに 降りそそげ 本格的な梅雨入り 独特な雨臭さが 腐敗臭をかき消してくれて ぎこちなく立てられた線香が 鎮魂香としての役割だけでなく まさに目の前の肉体から 心が切り離される瞬間に 目を背けさせないようにと 意識を繋ぎ止めていく 「さよなら」とは違くて どこかで生きている現実さえあれば いつだって心のあなたを笑
「わたし、あと十年で命を限ろうと思っているの」 大事な人に不意に伝えてみる そんなこと言わないでと泣きそうになる人 ただ、うつむき黙ってしまう人 自分もそうしたいと賛同するふりする人 またかと呆れて話題を逸らす人 大きな腕で抱きしめてくれる人 みんなわたしを理解しようと接してくれる大切な人 でもどの言葉もわたしの思考を止める力にはなり得ない わたしの真意を理解してくれる人はいないのだと 笑顔で「ありがとう」と返す 生きるために死が必要なのに どうして死=最期である
いつもの日課で 目に飛び込んできたのは 画面いっぱいに埋め尽くされた 非日常彩りの風船 あぁ、やってしまった まさか誕生日の設定をしていたとは思わず その日は再びTwitterを開くことはなかった カラフルな風船は 弾ける瞬間に 無意味な言葉を散らしていく 「おめでとう」 って、バカみたい 生まれた日を祝う慣習は どうにかならないものかと 無意識に風船を潰していく 人差し指を憎んだ ちょうど一年前は 眼を腫らしながら 虚空を見つめて佇んでいた バースデーソング
「桜は好きよ、生まれが四月だから」 そう答えたけれど、特段に桜の花が好きなわけでもなかった 毎日の生活に忙殺されていても、 実らぬ恋にうつつを抜かしていても、 痛ましい事故に自分を見失いかけていても、 ひとつ、またひとつ 散りゆく桜の花びらに年を重ねたことを思い知らされる 暖かなそよ風にヒラリ弄ばされ 掴み取れないキラめく願望 今年もまた、 強くならなきゃいけないの 幹を一層太くして、大地に根を伸ばし続ける 大きく両手を広げて、春風に向かい立つように 今年もまた
産まれ落ちてから命尽きるまで定められていると勘違いした運命を、幸せのシナリオだとまごうことなく演じていく、これが人としての生きる道 進んできた軌跡に違和感を感じ、何気なく振り返ってしまったら、ただの平坦な砂地でしかなかったことに気づく 煌めく波もなければ、輝く太陽も見えなかった 知らなければ幸せだったのかしらと悩むことさえも 不幸せだとあなたが言うのならば この先の道に、あなたとの未来なんて存在しないでしょう 一話記事はこちらから▼ 前回の記事はこちら▼ この記事
真っ赤に色づいた回転灯は あぁ、煩くてしかたない あのギラめきは 救いではなく警告 寝静まらない街に 唐突に鳴り響くサイレン音 どうして 過去のわたしに鳴り届かなかったのでしょう どうして 現在のわたしを捕まえてくれないのでしょう *** ▼一話はこちら♪ *** あの日クレヨンで塗りつぶされた記憶は 母に抱きしめられたところで 終わっている
突然けたたましく鳴り響くのは 未明のサイレン音 ひどい時は夜一夜、闇に轟く これが日常なのかと 厚く重いカーテンの隙間から闇空を覗き見た 宝石のように煌めくタワーマンションと首都高が交差し 暗い水面に煌びやかに揺らめいている これが望んだ世界だから いまさら ぼやきも怨み言もないけれど ときおり 明るい青空に心が揺らめいてしまう *** モノクロームな記憶の世界