成瀬と真兎~青崎有吾『地雷グリコ』を読んで~
何なんだろう、この感じは。
ページを捲るごとに高まる高揚感。ここまで引き込まれたのは、宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りに行く』(通称:成天)を読んだとき以来だ。
通勤の電車内で本書を開いてしまったもんだから困った。駅に到着した時点では、まだ表題作を半分くらいしか読めていなかった。
今なら、まだ大丈夫。
駅から会社までの距離は、自転車で約10分。8時前に出れば、就業時間に十分間に合うはずだ。
そう考えた僕は駅前のショッピングセンター1階にあるレストスペースで続きを読んだ。
ハマった、見事にハマった。
1本目でこんなに面白かったら、最後まで読んだ頃には一体どうなっちゃうんだと脳内大騒ぎのまま会社に向かった(その日は就業時間の8時30分までに何とかタイムカードを押せた)。
一際目を惹かれたのが、主人公の射守矢真兎の存在だ。
冒頭部分の登場シーンでも描かれているように、飄々として掴み所のないキャラクター像は、成瀬あかり(『成天』の主人公)の姿と重なる。それだけではない。女子高生らしからぬ洞察力と論理的思考で彼女は「地雷グリコ」や「坊主衰弱」など様々なゲームで勝利を収めていく。劣勢と思われる状況から逆転していく様は何とも痛快だ。
もう1つご紹介させていただきたい台詞がある。
「何になるかより、何をやるかのほうが大事だと思っている」(『成瀬は信じた道をいく』p.26)という台詞から成瀬の生き様が窺えるように、この一節からは真兎の確固たる信念のようなものが垣間見られる。
作者の青崎有吾さんも彼女の人物像について次のように述べている。
『地雷グリコ』の最後に収められている「フォールーム・ポーカー」では、真兎の気迫に圧倒された。
中学時代の同級生だった雨季田絵空にそれを実行させるため、真兎は自らの危険を顧みずに勝負に挑んだのだろう。本編の終盤で絵空の謝罪相手と1年前の真相が明かされたとき、僕は真兎というキャラクターの核となる部分に触れたような気がした。
本書のエピローグは真兎が次なるゲームに挑戦するところで終わっている。
次はどんなドラマを見せてくれるのだろうか。
続編を仄めかすようなラストだっただけに、早くも期待が高まっている。