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成瀬と真兎~青崎有吾『地雷グリコ』を読んで~

 何なんだろう、この感じは。

 ページを捲るごとに高まる高揚感。ここまで引き込まれたのは、宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りに行く』(通称:成天)を読んだとき以来だ。
 通勤の電車内で本書を開いてしまったもんだから困った。駅に到着した時点では、まだ表題作を半分くらいしか読めていなかった。

 今なら、まだ大丈夫。

 駅から会社までの距離は、自転車で約10分。8時前に出れば、就業時間に十分間に合うはずだ。
 そう考えた僕は駅前のショッピングセンター1階にあるレストスペースで続きを読んだ。

 ハマった、見事にハマった。

 
1本目でこんなに面白かったら、最後まで読んだ頃には一体どうなっちゃうんだと脳内大騒ぎのまま会社に向かった(その日は就業時間の8時30分までに何とかタイムカードを押せた)。
 一際目を惹かれたのが、主人公の射守矢真兎いもりやまとの存在だ。

 子猫のような身軽さで、綿雲のように飄々とした少女が進み出て、椚先輩の前に立つ。
 右手にはさっき購買で買ったいちごオレ。亜麻色のロングヘアに短めのプリーツスカート。ぶかぶかのカーディガンはいまにも肩からずり落ちそうで、だらしないから直せと毎日言っているのだけど改善の気配は一向にない。詐欺師みたいに口元だけで笑うと、彼女は軽快に名乗った。
「どもども、射守矢です。一年四組、射守矢真兎」

「地雷グリコ」p.6-7

 冒頭部分の登場シーンでも描かれているように、飄々として掴み所のないキャラクター像は、成瀬あかり(『成天』の主人公)の姿と重なる。それだけではない。女子高生らしからぬ洞察力と論理的思考で彼女は「地雷グリコ」や「坊主衰弱」など様々なゲームで勝利を収めていく。劣勢と思われる状況から逆転していく様は何とも痛快だ。
 もう1つご紹介させていただきたい台詞がある。

「『人生はゲームだ』なんてふざけたこと抜かす奴を信じちゃ駄目だよ」
(中略)
「ゲーム感覚で受験したって落ちたら一年無駄になるし、ゲーム感覚で子育てしたって成長した子どもは消せないし。だから人生はゲームじゃないの」

「坊主衰弱」『地雷グリコ』p.52

 「何になるかより、何をやるかのほうが大事だと思っている」(『成瀬は信じた道をいく』p.26)という台詞から成瀬の生き様が窺えるように、この一節からは真兎の確固たる信念のようなものが垣間見られる。  
 作者の青崎有吾さんも彼女の人物像について次のように述べている。

「彼女は全部が全部、勝負だと思っている人。これは遊び、これは勝負と物事を区切ってないんです。そう言うといつも気張っている人のように聞こえますが、常にその感覚があるので、それが自然体になっているイメージです。気構えだけは心の奥に秘めている、というか」

↓下記のURLを参照

 『地雷グリコ』の最後に収められている「フォールーム・ポーカー」では、真兎の気迫に圧倒された。

〈ひとつだけ、謝らせたいことがあるんだ〉

「自由律ジャンケン」『地雷グリコ』p.173


 中学時代の同級生だった雨季田絵空うきたえそらにそれを実行させるため、真兎は自らの危険を顧みずに勝負に挑んだのだろう。本編の終盤で絵空の謝罪相手と1年前の真相が明かされたとき、僕は真兎というキャラクターの核となる部分に触れたような気がした。
 本書のエピローグは真兎が次なるゲームに挑戦するところで終わっている。

 次はどんなドラマを見せてくれるのだろうか。

 続編を仄めかすようなラストだっただけに、早くも期待が高まっている。


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