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自選集:詩

35
密室で延焼する憎悪と、古戦場に揺れる花と。
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2017年10月の記事一覧

「あ、私は本気の本気じゃなかったんだ」彼の演奏を聴いてハッとした。例えるなら私が必死にパズルを組み替えている間、彼はパズルのルールなんか無視して上から絵の具を自由に塗って描いていた。そりゃ勝てんわ。安全圏の戯れじゃダメなんだ。それは自分の力をまず自分が信じていない証だったんだ。

いや綺麗事じゃなくてさ。現実にはそんな理屈なんかじゃとても捉えられない、うまく言葉にできなくて混沌としていて破壊的な体験がある。何も見えなくなってただ溺れて、それでも陸地を目指してあがくかのような。きっとそれこそが自分を自分たらしめる。書き残せるものがあるとしたらそういう話だ。

さようなら、もう帰らぬ私のすべてよ

さようなら、もう帰らぬ私のすべてよ

春風が吹き 期待と不安に溢れた顔の若人が行き交う季節が来た
わたしはそれをただ一人見送っていた

少し昔は彼らと同じような道を歩いていた
着慣れない服と緊張気味の表情でね

月並みだけどまるで昨日のことのようだ
今はもう何も見えない 何もかもが失われて ただ佇んでいることしか出来ない

あの時に戻れるものなら戻りたいと願った
しかし同時に何度やり直してもわたしにはもう無理だと思った

共に生き 共

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風静

午前1時

パソコンを消し テレビを消す

スマホを置き 心も置く

窓の外の声を聴く 自分の内なる声を聴く

疲れが渦巻く 喧噪も渦巻く

まだ残像がちらついてる まだ気配が息づいてる

小さじ一杯の孤独と 小さじ一杯の後悔が

でも
自分と信号機だけが呼吸するこの時間に
渇いた風が吹きぬければ

あとはもう 鈴虫の音だけ