マガジンのカバー画像

金田アツ子の温室

34
清廉な抒情を少女と花に託す画家・金田アツ子の小部屋。馨しい植物画を中心に、やさしい視線で描かれた作品を発表します。
運営しているクリエイター

記事一覧

ニコラス・カルペパーの窓|金田アツ子《2》|花言葉をまとって

 満天の星空の中、花言葉を身にまとう夜。  金田アツ子が送る、花たちの夢のひととき。  「希望」の花言葉をからだ全体で表すように、夜空に向かって咲くアイリス。のびのびとした美しい姿で満月を中央に抱き、その力を全身にみなぎらせる。  さあ、感じて。私こそが希望。 *  視界を奪う深紅のバラ。夜空を従えて星々のライトに照らされて、ゆるぎない存在感を放つ。  あなたが見つめるのはわたしだけ。わたしが見つめるのは、きっと。 *  三色菫が問いかけるのは、想いを寄せる誰かのこ

ニコラス・カルペパーの窓|金田アツ子《1》|心に写す植物

 ニコラス・カルペパーがその著に記した、惑星と植物の対応関係。  金田アツ子は各惑星が支配する植物と向き合い、その個性的な姿を摯実な筆で描き上げた。  金田アツ子だけが伝えることのできる、見る者の心に写す、世界でひとつだけの植物標本。  月の視線をあびている。  明るい色の花びらを持つ罌粟は可憐な見た目に反して、その妖しげな実からはアヘンを生み出す。白薔薇は静かに場を制し高みから見守り、 控えめに佇む睡蓮はあたりの熱をしずめて眠りを誘う。美しい白百合が毒を取り除き、落ち着

金田アツ子|名曲喫茶のブーケ

 東京にはまだ、訪れたことのない名曲喫茶がたくさんある。うっかりしているうちになくなってしまった場所もある。さみしい。  けれども金田アツ子さんの出してくれる昔ながらのデザート菓子は、いつまでたってもなくならない。遅くなってもいつも出迎えてくれる、わたしが来るより少し前の街の記憶。 *  まるで塔のようにそびえ立つ色とりどりの花々。しかしそれは花器ではなく、デザートプレートに載せられてやってきた。  終わりもなく始まりもない純白の円形に、いつまでも褪せることのない菫色

金田アツ子|舞踏会、少女、その美しい存在証明

 賑やかな話し声、少しずつ大きくなるワルツの調べ。  きらびやかな喧噪が近づくにつれ、少女の胸に咲く菫の花は、期待に震えはじめる――  金田アツ子様による本展のメインヴィジュアル《舞踏会の手帖 菫》は、舞踏会で踊った方や、その曲などを書き留めておくための小さな手帖をモチーフとしています。  その中身は、期待と希望で波打つ、真っ白なページでしょうか。  それとも、インクのさざ波が寄せる、記憶の浜辺でしょうか。  菫色の小部屋は、たくさんの出会いや出来事が交錯する特別な場所

スクリプトリウムvol.3|金田アツ子 & 霧とリボン & レミーのアトリエ|温室と薬草のティタオル

Text霧とリボン  ここスクリプトリウムには金田アツ子さまの温室があります。  本展ではヨネヤマヤヤコ様の素敵なご案内で、月を待つ聖なる温室がひらかれました。  「小さくとも思い高く」咲くアツ子さまの花々を、日々の暮らしの中で、お花を一輪活けるように愛でてみたい——そんな思いから、一枚のティタルが生まれました。  2020年秋、オンライン開催した霧とリボン企画 金田アツ子 & Belle des Poupee 二人展——香り高い日々を今でも鮮やかに思い出します。

スクリプトリウムvol.3|金田アツ子《2》|聖なる名前の植物

Text|ヨネヤマヤヤコ  マドンナリリー。月あかりを受けて花弁はいっそう白く輝き、静謐な美しさをたたえています。 クレルヴォーの聖ベルナルドゥスは「マリアは謙譲のスミレ、純潔の百合、慈愛の薔薇」となぞらえました。  葉に白い斑模様があり、それが聖母マリアのミルクがこぼれたように見えることからマリアの名前が付けられたアザミ。幼子イエスに授乳する聖母の高潔な魂が宿っています。  ちいさな花たちの囁きを聞き逃すまいと繊細に描かれたアンジェリカ。守護天使ミカエルの記念日に

スクリプトリウムvol.3|金田アツ子《1》|修道院の薬草

Text|ヨネヤマヤヤコ  こじんまりとしたガラス張りの温室には煌々と月明かりが差し込んでいます。金田アツ子さまの温室のこちらの一角では、主に薬効を持つ植物と聖なる名前を持つ植物が育てられています。馨しき植物療法へと参りましょう。  蜂蜜色と菫色が鮮やかな三色菫。凛と顔をあげたアツ子さまが描かれる清冽な少女たちの佇まいを宿しているよう。  甘く濃厚な香りを辿ってみればハート型の葉の間から花のシャンデリア。菩提樹の花のお茶は悪夢を払い安眠を誘います。  アツ子様が映

金田アツ子|Halmes & Moppetson シリーズ

TextKIRI to RIBBON  モーヴ街・7番地内「金田アツ子の温室」は、四季折々の植物や薬草が咲き乱れる場所——名探偵たちは、8番地《ヴィヴィアンズ百貨店》で出会った暗号が記された植物標本の調査のため、温室の扉をノックしました。  するとどうでしょう。扉をくぐったその先には、見知った霧の都ロンドンが——モーヴ街からロンドンへ、時空を超えてつながる秘密の扉が《スクリプトリウム》には隠されていたようです。  ロンドンに舞い戻った名探偵たち。  しかし、其処此処

レース模様の図書室、再訪|金田アツ子《2》|Rosa damascena

TextKIRI to RIBBON  図書室の終幕が近づいてきました。  名残惜しい気持ちで書架の間に佇んでいると、少女たちがひとりまたひとりと、閲覧室の方に集まってゆくのが見えました。図書室の少女たちに、贈り物が届いたようです。    また会う日までのはなむけとして、植物を愛するこころやさしき温室の主が届けてくれたもの——  薔薇色の薄紙をそっと開封してみましょう。 * * *  レースを編むように、少女たちとの美しい思い出を花びら一枚一枚に編み込んだ金田アツ

レース模様の図書室、再訪|金田アツ子《1》|夕ぐれの色、薔薇の色

 新しい緑の眩しさが落ち着きを見せる晩春の夕暮れ——図書室の菫色もうっすらと翳りを帯びてきました。暖かだった室内にも冷気が少しずつ流れ込み、昼から夜へと移ろうはざまの刻が訪れます。  何度も読み返してきた書物が、ふと哀音を奏でる時間帯。時のはざまで揺れる少女のこころに寄り添うことができますように・・・ * * *  レースブラウスを折り目正しく纏い、髪をきっちりと結い上げたひとりの少女。熱心に紐解いていた書物からふと目を上げ、夕暮れの諧調が差し込む窓辺に近づいていき

金田アツ子|真正ラベンダーとニガヨモギ

TextKIRI to RIBBON  春のモーヴ街の散策を楽しみながら、修道院の廻廊を抜けて、馨しい花々が格別な丁寧さで育てられている「金田アツ子の温室」に着きました。菫、勿忘草——こじんまりとしたガラス張りの温室に、ひっそりと、そして気高く、可憐な春の花々が咲いています。  密やかな佇まいを邪魔しないように、花々の息遣いに心を寄せながら、ゆっくり見て回ります。——ふと、どこからともなく、ハーバルな芳香が漂ってきました。香りを追って歩みを進めると、奥の方に、ちいさな

金田アツ子|エミリーの温室のティタオル

TextKIRI to RIBBON  ここ7番地・スクリプトリウムに新しく扉を開いた「金田アツ子の温室」。昨日は、温室にはじめて咲いた春のお花「菫」と「勿忘草」をお届けしました。  今日お披露目するのは、昨年の発売時またたく間に完売した、金田アツ子 & 霧とリボン & レミーのアトリエによる「エミリーの温室のティタオル」。  Belle des Poupee様との二人展にて発表されたコラボ商品です。  以来、再販希望のお声をたくさん頂き、春の到来と共に、ようやく

金田アツ子|菫と勿忘草

Text|KIRI to RIBBON  アブサン色が健やかに流れる春のモーヴ街——  このほど、7番地に位置するここ「スクリプトリウム」に、清廉な抒情を少女と花に託す画家・金田アツ子さまをお迎えすることとなりました。  「金田アツ子の温室」として、馨しい植物画を中心に、やさしい視線で描かれた作品を発表します。モーヴ街をお散歩される際は、ぜひ温室を訪れて、美しい草花たちをゆっくり眺めて下さいね。 *  アツ子さまは昨年、2番地のオンライン・ギャラリー「MAUVE C

温室の別扉《2》|新訳付作品集『Emily’s Herbarium』

 温室の馨しい風景を植物標本のように綴じた箱入アートブック、新訳付作品集『Emily’s Herbarium』を限定刊行いたします。  ウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスに憧れて、1999年プライベート・プレス「Club Noohl」を設立、これまで限定版アートブックや蔵書票を制作発表してきました。今回は2018年以来、久しぶりの刊行となります。    アンティークの植物標本をイメージして、全ページ手切り紙を使用。別刷り作品ページは押し花をするように一枚一枚手貼りし