見出し画像

【自著のキャラクター造形を考察する】②ルイ編 〜女ことばキャラの是非〜

本気で誰も読んでないシリーズ

いやいいの。
私が、己のキャラクター造形のプロセスやジェンダー観を見直すための試みだから。
自分だけのための資料になってもそれはそれで OK。

さて、今回はルイちゃん。
読んだ方ほぼ全員に気に入っていただけた、過去作も含めおそらく支持率ナンバーワンのキャラだと思います。

私もルイちゃんにかなり助けられました。
何故なら、ルイちゃんは「レオの同世代の友人」「相談役かつ自己分析の相手」「中盤のシリアス展開を緩和」という役割ありきで作ったキャラだからです。

実は第 4 話の途中、ルイちゃんが登場する直前まで、彼女は設定に居ないキャラでした。
正確には、第 5 話でセーターを編むのはルイちゃんのお母さんポジションのキャラの予定でした。

しかし上記の役割、特に「レオが大人に囲まれてばかり」という状況を打破する役割が必要と判断し緊急投入したのでした。

そんなルイちゃんですが、ひとつ、私にとってはものすごく大きな要素を抱えています。

ルイはなぜ「女ことば」なのか

1.私なりのタブー破り「女ことば」

女ことば。ざっくり言うと、語尾が「〜なのね」「〜わね」という話し方ですね。
これに関して、もちろん人それぞれ書き手それぞれの考え方がありましょう。そしてそれに対し非難も介入もするつもりは毛頭ない、という前提で。

若い女性キャラクターに女ことばを話させない、というのが私のポリシーとして在ります。
多分、私の書く小説の雰囲気より文芸寄り、シリアス寄りの場合は、女ことばもしっくり馴染む気がします。

ただ、私の小説の場合、会話部分は大分現実の日常会話に近い、と思います。
その中に女ことばが投入されると、違和感が生じるだろう、という判断によるものです。
あと、好み。

にも関わらず私は、ルイを意図的に女ことばのキャラにしました
何故か。


2.ルイは作者にとって都合が良すぎる

前述の通り、ルイはとてもよく動いてくれました。紛れもなく脇役なのですが、ルイが居ないと物語は成立しなかったと言っても過言ではない。

しかしこれは、ご都合主義と隣り合わせでもあります。
実際、都合いいし物分りも良すぎる。
こんなキャラを、現実に居そうなリアリティのある高校生にしたら、確実にその都合の良さが際立つ……。

そこで、「現実に居なさそうな、たっちゃんくらい変わったヤツにする」という手でもって、ルイの都合の良さをカモフラージュしたのです!

これ言っていいのか……
まぁ読んでる人ほぼいないしいっか。
それ故の、もはや二次元にしか存在しないような、「年若い女ことばのキャラ」にしました。

なお、母さんとばあちゃんも女ことばですが、これは世代差があるのでOK。OKだよね。OKてことにしよ。

また、リサさんユイナさんは共に「非・女ことば」のキャラですし、1作目のあいこさんも
「やめろ」「うざ」等日常語のキャラです。


3.この時代に女ことばのキャラを生み出して大丈夫だったかな……

ルイ筆頭に、何故今回こんなにキャラ造形について考え、というか悩んでいるかと言うと、この小説の小テーマが「バイアスの打破」であるから、かもしれません。

たっちゃんなら、タトゥーが入ってる人に対するバイアス。
レオなら、年頃の男子高校生、というものに対するバイアス、および「ニット男子」というものに対するバイアス。

そしてルイにかかるバイアスが、意図的に投入した女ことば。
2 のとおり、ご都合主義のカモフラとしての女ことばであったのですが、現代のジェンダー観・フェミニズム観に照らすと、「バイアスの打破」に真っ向から対立する要素です。

つまり、ルイが女ことばであることによってかかる、「楚々とした古風なやまとなでしこ」的バイアスを、しっかりと打破していること、これが重要だと思いました。

4.「女ことば」と「女らしい言い回し」の違い

大丈夫かなぁ女ことばで良かったかなぁと逡巡していた時に、たまたまY/Hさんのこちらの記事を拝読しました。

その中で紹介されていたこちらの本

私の懸念していた部分そのものである……。
即座にKindleで購入し読みました。
内容としては、ドイツ語を中心とした外国語における性差、そして日本語の女ことばや「少男・少女ではなく少年・少女」であることなど、単語の中に潜む男女差を、歴史を紐解いて論じているものです。

その中で興味深い、というか私が今回考えている上で大きなヒントになったのが

なくすべきは、女ことばではなく、先に挙げたような女性特有の話し方「女らしい言い回し」

女ことばってなんなのかしら? より

という部分です。
誤解なきように言っておくと、著者の平野卿子氏は、

いま多くの女性たちが話している「中立語」を簡潔で気持ちがいいと思っている

と述べています。
そのうえで、女ことばはもうある年代以上の女性が話すものになりつつあり、もはや目くじら立てるものではない、としています。

そして問題なのは「女らしい言い回し」だと。

例えば
「それはまずい、〜するべきだ」
に対して
「それはあまり良くないのではないでしょうか、〜が良いように思うのですけれども……」

こういう衝突を避けるような言い回しが「女らしい言い回し」としています。

では、その観点からするとルイちゃんはどうでしょうか。女らしい言い回しをしているでしょうか。

5.ルイちゃん、誰よりもハッキリ主張している

作中のルイちゃんの要望と言うと、大きなところでは「たっちゃんさん通信」「THE SECOND 鑑賞会」です。

まずたっちゃんさん通信に関しては、これストーカーギリギリですよね……。
なんか面白さでふわっとコーティングされてるけど、だいぶギリ。
しかし「市原君はたっちゃんさんの面白を誰かと共有したいはずよ」という、完全なる推測を断言することにより、全く労力をかけることなく、推しの情報を手に入れてしまう……。
相手がアイドルだったら絶対に出禁になるやつ

しかし作者の私さえも、その行動のヤバさに昨日まで気づいておりませんでした。

そして、THE SECOND 鑑賞会。
これもドアインザフェイステクニック(始めに大きな要求をし、相手が断った時に感じる罪悪感を利用して、数段階小さな要求をすること)でもって、「たっちゃんさんの家に行ってもいいですか」→「たっちゃんさんのお店ではいかがでしょうか」と交渉成立させてしまいます。

またこの途中、推しのたっちゃんがリモート観戦を提案した際も「却下です」とズバッと切り捨てる
女らしい言い回しとは真逆の主張の強さと言えるでしょう。
レオも主張するキャラです。しかしそのレオを凌駕している時点で、ルイは主要 3 キャラのうち誰よりも主張と交渉力のあるキャラです。
タトゥーを入れるか、と言うくだりについても「完全にノーね」と、女ことばではあるけれどもハッキリ自分の考えを述べている。


6.ルイは主要 3 キャラの中で唯一、恋愛から自由である

ルイちゃんは、恋愛感情を持たない人ではありません(第 7 話参照)。
しかしながら、「そういうんじゃないから」という言葉を切り札に、レオに対しての感情を友情、たっちゃんに対しての感情を推しと表現します。
自分が相手に抱く好意の種類について、誰よりも自覚的であり、また言語化する力もある。
だいぶ混沌としているレオ・たっちゃん組とはずいぶん違います。
それゆえ、レオに対し冷静なアドバイスができる、と。
女子に恋愛感情抱かれがちなレオに対し、湿度低めの友情を抱き、相談相手として、物語の進行をリードする……めっちゃ助かる(私が)


結論
ルイ、私、ほんと助かったわ。そのままの君でいて OK よ

ルイは女ことばです。
そこには、作者である私の「都合のよさをカモフラしたい」という思惑が多分に絡んでいました。

その効果は(おそらく)あったのですが、一方で現代的でない、という問題がありました。

しかしながら、ルイが女ことばではありながら誰よりもハッキリと主張し断言し、また、主要 3 キャラ中唯一の女性として三角関係に陥りそう、に見せかけて一切その気配を感じさせなかった。

女ことばでありながら、『女らしさ』に縛られないキャラ」になっている、と思います。思います。思います。

よって私は、ルイの女ことばを修正したりはしません

女ことばにより、リアリティや現代的ジェンダー観に照らすと違和感はあるでしょう。
しかし、ルイが居ることによって生じる、ちょっと二次元的な、現実離れしたおかしみがもたらす効果の方が、物語への影響が大きいと判断しました。その「現実離れしたおかしみ」を構築するにあたり、女ことばであることが多分に作用している、と思いました。

正直、ルイちゃんの強さや恋愛から自由であることも、私の都合です。
この都合のよさが鼻につく、という人もいるかもしれません。
とはいえ、多分8~9割が女性である私の読者の皆さんにルイちゃんが支持されたことは、ひとつの肯定材料と見てもいいんじゃないかと思います。

もっといい小説を書きます!