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審判と共にサッカーを体感する『ある試合』≪6/4-10開催!ヨコハマ・フットボール映画祭2022≫

 熱気溢れるスタジアムでレフェリーは適切に試合を裁くことができるのか?みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第49回を担当します、スタッフのかめです。よろしくお願いします。

 6月4日から開催するヨコハマ・フットボール映画祭2022では、世界中から集めた、選りすぐりのサッカー映画を上映いたします。今回はその中から『ある試合』について取り上げます。スイスのローマン・ホーデル監督が手掛けた、17分の短編ドキュメンタリー映画です。製作にあたり、FIFA国際審判員でもあるフェダイ・サンが、実際の試合でマイクロフォンを付けて、映画の撮影に協力しています。アシスタントレフェリーとの会話、選手とのやりとり、息遣い、ピッチ上で耳にするファンの歓声。自分がまるで審判として試合に参加しているような、臨場感あふれる作品です。

《ストーリー》
 スイス・スーパーリーグのBSCヤングボーイズ対FCルガーノの試合を前に、ピッチでは散水が行われている。主審はFIFA国際審判員でもあるフェダイ・サン。アシスタントレフェリーも含め、それぞれが控室でキックオフの時間を待っている。果たして今日の試合はどのような展開になるのか。サンを中心に、スタジアムでの試合が17分に凝縮して描き出される。

この映画ができるまで

 主審のフェダイ・サンは、19歳の時にサッカー審判としてのキャリアを歩み始めました。2011年にはスイスのトップリーグの審判員に昇格。2016年からはFIFA国際審判員に登録されています。現在はスイス・スーパーリーグで主審を務めるかたわら、FIFAのビデオ・マッチ・オフィシャルとなっています。

  この映画の脚本も書いている映画監督のホーデルは、若い頃はFIFAワールドカップや欧州選手権を見ては、サッカーの試合について夢中で話す学生でした。ある時、試合後に友人同士で議論をしているうちに、自分が無意識に審判を擁護していることに気がつきます。ルツェルンの専門学校で映画製作を学んだホーデルは、その頃から審判に関する映画のコンセプトを温め始めました。後にフェダイ・サンと出会い、彼の人間性に魅了され、審判に関する映画を作りたいという気持ちがさらに強くなりました。

  しかし映画化については紆余曲折がありました。スイスのあるサッカークラブと共同で進めていたプロジェクトは、クラブの都合により途中でキャンセルされました。その後、同じくスイスのBSCヤングボーイズの協力を得て、撮影が再開されます。BSCヤングボーイズは、YFFF2019で上映した『MARIO』でも舞台となっていたように、映画製作に非常に協力的なクラブです。

 2019年8月に行われたBSCヤングボーイズ対FCルガーノの試合では、この日の主審だったフェダイ・サンが撮影用のマイクロフォンを装着し、8台のカメラと16人の映画スタッフが試合を追いかけました。しかし撮影は1試合だけで完結したわけではありません。観客席、家族の映像、審判控室、その他の音響効果は、それぞれ別の試合や他会場で撮影されています。ホーデル監督は、「ドキュメンタリーは、現実が足かせとなるべきではない」との考えを持ち、具体的なスコアや試合日という「事実」には関心がないとインタビューで語っています。

ひとりの人間としての審判

 『ある試合』は、主審フェダイ・サンの仕事が、判断の難しい出来事の連続であることを物語ります。例えば映画の中の1シーン。観客席で大きく腕を広げて、ジャッジに疑問を示すファンの姿や、実況アナウンサーのコメントから、私たちは、ペナルティエリア内で選手がタックルにより倒されたことを把握します。主審は「ボールに向かっている」と言い、PKを与えませんでした。選手が倒された場面は映像では提示されません。実際にPKだったかどうかが問題なのではなく、あくまで審判が口にする言葉から、彼の心の動きを想像させるのです。

 ハーフタイムに、控室でこの場面の映像を確認するサンの口からは、「(PKかどうか)断言できない」という言葉が発せられます。一方でアシスタントレフェリーは、PKもありえたのではないかとの判断を投げかけます。テレビ実況の「難しい判断だったが、明らかにボールに行っている」という言葉が救いのように感じます。

Ⓒ2020 Ensemble Film GmbH. All rights reserved.

 あるいは試合後半の1シーン。サンはファウルを受けて倒れる選手を見ながら、そのままプレーの継続をうながします。と同時に、「まずい、イエローにすべきだったか」とつぶやきます。また別の場面では、出血し倒れている選手の元へ駆け寄ったサンが、ファウルをアピールして詰め寄る選手に対し、「私は見てないんだ!どうしろと?」と叫びます。VARは怪我の原因が味方の選手であることを告げます。

 短い映画の中で何度も繰り返されるサンの決断。私たちがサッカーの試合を見る時、審判が一人の人間であることは忘れがちです。しかしこの映画は、彼らが万能ではなく、不確かな状況で常に判断を求められ、揺れ動く人間であることを思い出させてくれます。

試合を成立させている人々

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 『ある試合』は審判だけを取り上げた映画ではありません。試合前には、同じ黄色のベストを身に着け、運営に関する説明を聞いているスタジアム警備のグループが映ります。ハーフタイムに彼らは、発煙筒が投げ込まれた場合は、審判の指示がない限り、燃え尽きるまで触ってはいけないと注意を受けます。実況席では放送の準備をするアナウンサー。テレビ中継を映し出す複数のモニター画面。記者席。審判アセッサー。そして何よりも歓声やジェスチャーで、雄弁に感情を伝える観客席のファン。全て含めてひとつの『試合』であると、タイトルは示唆します。ゴールポストに背を向け、観客席を見守る警備員が、得点の時に見せる小さな動きに、私たちはサッカーがもたらす喜びを見て取るかもしれません。

 試合後、父親を乗せて車を運転して帰るサンが、「父さんが来ると厄介な試合になる」と冗談を言うと、父親は「お前次第さ」「審判の力量」と返します。それでも家族に「試合は楽しかった」と言われることで、私たちもサンの1日が少し報われたような気持ちになります。

おまけ

 ところでこの試合映像には、現在、清水エスパルスでプレーしているカルリーニョス・ジュニオが、FCルガーノの選手として一瞬登場します。本当にワンシーンですので、ぜひ映画祭に確認に来てくださいね。

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『ある試合』
2020年/スイス/17分9秒
原題:Das Spiel
監督:ローマン・ホーデル
出演:フェダイ・サン

 「ヨコハマ・フットボール映画祭 2022」は6/4(土)-5(日)にかなっくホール(東神奈川)、6/6(月)-10(金)シネマ・ジャック&ベティにて開催します。

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