見出し画像

名詞の不可算・可算(単数・複数)⑤-4:冠詞省略1(CU&冠詞複合問題)

副題:可算不可算の理想と現実(英文法の理想と現実)

名詞の不可算・可算(単数・複数)[UC(SP)]の深掘り版19

 「いわゆる限定詞深掘りへの挑戦」の第3弾で、「冠詞の省略」問題です。実際に日常的な文脈で頻出するこの現象のせいで、ただでさえ複雑怪奇な冠詞(限定詞)の複雑さがさらに増して全体像を正確に理解するのがますます困難になる、という英語が抱える根源的な問題がお伝えできていれば幸いです。

この記事に対するコメントは不要で、ご質問はUNIPAのQ&Aからお願いします。

今回の検証内容
❶ 限定詞[determiner]とは何か?:限定詞の本質とは?(さらなる深掘り)
❷ 限定詞の代表である冠詞の省略について
 生成文法の主流である限定詞句仮説(DP hypothesis)のように冠詞を「名詞そのものよりも重要な名詞句の中心(学術的に言うと"head")」と見るか、それとは違って「形容詞のような修飾語」と見るか。視点を変えて、定冠詞・不定冠詞は英語において無くてはならない存在(=省略してはいけないもの)なのか、それとも無くてもいい場合がある飾りのようなものなのか?(こう言い換えると、少しは整理がしやすくなるかも)

まず、以前の記事を再掲示

2. 冠詞の省略
  a. by等を使って手段を表すときに無冠詞にする
   可算名詞単数形前の不定冠詞a/anを省略、複数形にもしない
   例:by car, by bus, by bicycle, on foot, at hand(見た目は不可算名詞)
  (ふつうは「前置詞」の章で扱われる項目)
  b. 書籍タイトル・文章の題名や新聞の見出しで無冠詞になる
   例:Man bites dog
  c. その他の慣用句:2つの名詞句が対句になっている場合など
   例:day and night, day after day, hand in hand, cause and effect

前記事「英語の名詞②-0b:冠詞(中盤)[不定冠詞・定冠詞・無冠詞](学校英語の復習&英語史+α)」

この「冠詞の省略」3項目のうち、特に「b. 書籍タイトル・文章の題名や新聞の見出しで無冠詞になる」について以下で深掘り。

 学校英語のなかでは、「総合英語Evergreen」で「新聞の見出しなどでは冠詞の脱落が起こる(無冠詞になる)」という解説がありますが、私の調べた限りでは他にこの問題を取り扱っている学校英語参考書籍は見当たりませんでした(ご存じの方は、お知らせください)。
 これに対して、学校英語以外では、以下のような説明がされております。

◉英語の冠詞:以下のWikipedia記事より引用
冠詞の語法
:見出し、標識、ラベル、メモなど、簡潔さが重宝される場面では、冠詞を含む機能語が省略されることがしばしばある。例えば、新聞の見出しでは The mayor was attacked.(「市長が襲われた」)は Mayor attacked と略される。
無冠詞の慣用表現:可算名詞の単数形には限定詞が付くのが原則であるが、慣用句・決まり文句などにおいて、冠詞が付かないことがある。
(施設・建物・場所などや交通手段・通信手段など機能が重視される場合、官職・地位・役割など人間の属性を表す場合などの例)

◉決り文句はほとんど無冠詞:慶應義塾大学の堀田隆一先生のhellog〜英語史ブログより引用
 正式な I wish you a merry Christmas! という挨拶を省略すると Merry Christmas! となり,I wish you a good morning. を省略すると Good morning! となる.身近すぎて気に留めることもないかもしれないが,挨拶のような決り文句 (formula) を名詞句へ省略する場合には,冠詞を切り落とすことが多い.

有名な例:"a man"なのか"man"なのかが大問題
 さらには、人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロング船長による以下の発言が有名です。
(不定冠詞"a"を言ったか否かの大議論が巻き起こったそうです)
"That's one small step for (a) man, one giant leap for mankind."

この発言にご興味のある方は、以下のThe Guardian記事もご覧ください。(無料記事)

以下のThe Atlantic記事でもこの問題が取り上げられています。(途中まで無料)

さらに、以下のWikipedia記事で実際の音声を聞くことができます。

実際の音声(Wikipedia記事にリンクあり)

※生死をかけて人類初の月面着陸を成功させたアームストロング船長の文法ミスを論う(あげつらう)ような行為は、個人的には好きではありません。そんなことよりも、英語がいかに微妙な言語かということを明確に示す好例、という認識のほうが我々のような英語学習者にとっては重要でしょう。

◉最後に問題演習を少し

問題1:Man bites dog
上の新聞見出しの例(冠詞の使い方が不完全)を、文法的に正確な文章に修正
(ピリオドが省略されるのは通例、時制の問題は今回パス)

問題2:"one small step for a man"と"one small step for man"
上の2つの句を正確に訳し分け(どう意味が変わる?)

問題3:by car, by bus, by bicycle, on foot, at hand
上の前置詞句(この名称が適切かどうかは検証が必要ですが、今回はパス)のなかの名詞(car, bus, bicycle, hand)は冠詞の省略ではなく不可算名詞と解釈することは可能か否か? (各自で検証)

いわゆる学校英語や学術英語で整理しきれていない部分を考えてもらうための教材、面白いと思っていただけると幸いです。

授業ではちゃんと解説しますが、一般公開はここまで。あちこちにヒントを散りばめてあるので、非受講生の方は辞書を引いたり自分で調べたりして考察してみてください。

以下をクリックして関連記事もご覧ください。


いいなと思ったら応援しよう!