公立中学校におけるCOVID-19下でのweb配信教材の状況
はじめに
COVID-19による臨時休校後、弊校が所属する札幌市教育委員会よりweb動画配信サイトの運用の許可(学校として動画サイトのアカウント取得の許可)があり、併せて「改正著作権法第35条運用指針(令和2年(2020)年度版)」により、YouTubeチャンネルが開設された。動画の制作要領については筆者の過去投稿をご覧頂きたい。(下記掲載)余談になりますが、札幌市教育委員会の許可発令が4月28日。私がweb配信教材について先生方へ自主研修会を開いて伝えたのは下記の通り4月18日。この1週間の違いが図らずも弊校にとってアドバンテージとなった。
5月7日配信開始以来、これまで77番組をアップロードした(5月15日現在)。配信開始からおよそ2週間足らずのうちにこれだけの番組がアップロードできたことは、本校の先生方の努力の賜物であり、換言すると「生徒への思い」がいかに高かったかを物語る。前回投稿で記述したとおり、限られた設備(公立学校のネットワーク環境)と、先生方の平均的な(決して高度なテクニックでは無い)ITC知識と技能で「できることからやる」というコンセプトについて、早い段階から共通理解と合意形成ができたことが大きかったと考えている。
COVID-19対応は、終息するのでは無く「共生する(with COVID-19)」状況になることを私個人として予測している。これは、学校再開後再び感染拡大によって再び休校措置(あるいは休校と学校再開を繰り返す状況)となることを想定しているからである。このことを想定した上で、今回取り組んでいるweb配信動画は「学校での対面式授業を含めた多様な学習支援」の一部として定着する可能性が非常に高いと考えている。本稿は、特に公立学校でweb配信教材に取り組んでいる。あるいは、これから取り組みを開始する。という方とすべてのオンライン授業(講座)に取り組む方々に参考になることを期待して執筆する。
動画配信後の視聴状況の分析項目と方法について
今回の分析は2020年5月7日~5月15日の「YouTube studio」によるデータを採用した。統計データの論拠となる数は、本来であれば「視聴した人数」となるが、デバイスの多様性(一人が複数のデバイスで視聴している可能性がある)から人数のカウントでは無く、視聴回数(今回は5891回)としている。
分析項目は、「視聴している年齢分布(視聴に使用した端末の契約者の年齢など)」「視聴に用いているデバイスの種類」「デバイスのプラットフォーム(OS)」「本校教員自作動画(番組)全体データ」とした。この分析結果は、今後の先生方のよりよい動画制作に活かして欲しいと考えていることと、生徒の家庭ネットワーク環境の状況把握のために行った。
(1)視聴している年齢分布(視聴に使用した端末の契約者の年齢など)
この分析は、通信携帯端末(スマートフォンなどの回線)の契約者年齢又はGoogleアカウント所持者(YouTubeアカウント所持者)の年齢を示している。本校在籍生徒の年齢(13~15歳)の視聴回数割合が17.66%に対して、45~54歳の視聴回数割合が高い(42.26%)であることから、「本校生徒の全視聴回数の内42%は、保護者(又は保護者名義)の携帯端末を使っている」と考えられる。保護者名義では無く保護者所有の携帯端末の場合、「自分が視聴したいときに保護者から借りれない」時が全視聴回数42%のうち数%はある考えられる。
(2)視聴に使用されているデバイスの種類
スマートフォンでの視聴回数が半数を越えている。以下、タブレット端末そしてパソコン(ノート、デスクトップのいずれか)となっている。多くのスマートフォンのモニター画面が6インチ程度であることから、YouTube動画画面を視聴する場合のテキスト(文章)を読み取ることに困難があることが想定される。よって、web動画配信教材を作成する場合「文字の大きさと見やすさ」に配慮する必要があると考えられる。
(3)デバイスのプラットフォーム(OS)
スマートフォンが多いことから、必然的にAndroidとiPhoneの比率が高い。その他読み取れることは、AndroidとiPhoneは端末単独でのネットワーク接続ができる(携帯キャリアの契約通信回線使用)。その他は、端末単独でのネットワーク接続ができないことから、有線LANあるいはWIFI接続による視聴であると考えられる。このことは、家庭によっては「データ量無制限契約でスマートフォンだけ所有(パソコンは所有していない)」と言う状況もあり得ると考えられる。このような家庭では、「ホームページやYouTube視聴ができるが、ダウンロードしたものを印刷できない」可能性があると考えられる。
さらに、このデータは「家庭のネットワーク回線状況」を考える材料となる。具体的には、
ア)ネットワーク環境がない
イ)携帯端末限定(Android又はiPhoneだけ)のネットワーク回線である
ウ)家庭用有線LAN又はWifi回線だけがある ⇒パソコン(プリンタ)所有の可能性が高い
エ)イ)、ウ)の両方の環境がある
余談となるが、行政から「GIGAスクール構想」実施に伴い、生徒1台のタブレット端末が配付された場合、ア)イ)の環境の家庭は、「端末があっても家庭では何もできない」状況となる。
(4)本校教員自作動画(番組)全体データ
全体的な傾向として、「インプレッション数」は、動画がアップロードされた時期が早ければ早いほど、動画のサムネイルが表示される回数も増えることから、数値上の意義はさほど大きいと考えらない。しかし、「その動画の視聴回数が増えると、評判の動画として上位に示される」傾向もあることから、新しい動画でもインプレッション数が多いことは「注目される動画」と考えられる。
「平均視聴時間」はひとつの番組の総時間に対してどれくらいの時間視聴しているかを示している。どの教科も3~7分程度のweb配信動画を制作している。よって、「番組の総時間に近ければ近いほど生徒は最後まで見ている」ことを示す。しかし、逆の考え方をすると「平均視聴時間が1分未満」とうことは、「1分も経たぬうちに視聴をやめる」あるいは「他の動画を見る」と考えられる。これは、通常の対面式の授業もそうであるように、「いかに意欲を喚起して学習に向かわせるか」という課題が含まれていると考えらる。よって、分析項目のうち、動画作成者が一番留意する必要がある項目だと考える。
「視聴回数」は、視聴時間に関わらずその動画を視聴したかを見る目安で 「総再生時間」と数値が連動していれば「動画を最後まで視聴した回数」と考えることもでる。また、「何度もわかるまで視聴したかどうか」を見る指標にもなると考える。
「総再生時間」は視聴回数、平均視聴時間と連動していると考えらる。
「インプレッションのクリック率」はサムネイルを見て「その教科の番組を選択した行動(クリック)」を示すので、その教科について「学習したい」という意欲を裏付ける行動と考えることができる。また、サムネイルで視覚的注目を上げる手立ての必要も考えられる。
総論として、web配信教材で大切にしたい視点は、「平均視聴時間をいかに伸ばすか」ということから、「平均視聴時間を生徒の学習意欲」の一面と捉えて教材制作を工夫すること。そして、「視聴回数をどのように増やすか」ということから、「繰り返し、分かるまで視聴してもらえる教材」をどのように開発するか。この2点が今後のweb配信教材制作のポイントだと考える。
今後のweb配信動画の制作に向けて
以下、各動画のデータ上の結果から見られるよい点を指摘する。その原因や根拠(所以)については様々な論点があると思われる。
①「1年数学①②」の視聴回数の多さとインプレッションクリック数の多さの所以
②「3年国語①」の視聴回数の多さと総再生時間の多さの所以
③「2年数学①」の視聴回数の多さと総再生時間の多さの所以
④「1年数学⑧」「2年社会①②③」「1年音楽②、3年音楽①」「3年英語②」「2年国語⑦」の平均視聴時間の長さの所以
⑤「3年英語①」のインプレッションクリック数の多さの所以
⑥「2年理科②」「1年国語①」「1年社会③」「2年社会①②」総再生時間の多さの所以
⑦「1年社会」は本人ナレーション「2年理科」はデジタル音声の工夫が見られる
⑧「音楽」は、今回の「著作権許諾」のメリットを活かしている
最後に、本稿および筆者の以前の投稿で「オンラインまたはweb配信教材の課題」について、これまでも繰り返し述べてきたが、再掲して本稿を終える。
学校側の課題。まず、ICTマンパワーとしての人材育成のこと。器材セッティングから、アカウントの取得、全体的なコントロールは1~2人でよい。その他、活用する先生方についても、ICT知識と技量について、ある程度の知識と技量があればよい。一番問題となるのは、いわゆる「ITデバイド」などと呼ばれている、ICTに弱い(あるいはICTを避ける傾向がある)先生方が現場には少なからずいることである。このような先生方はアナログ的な思考や技術に長けている場合が多く、このことが一層ICT活用を遠ざけてきたと考える。しかし、これらの先生方は今後、対面式授業(リアル授業)とオンライン授業の併用を前提とした多様な学び方が標準化したときに完全に遅れる可能性が出てくる(ガラパゴス・ケータイならぬガラパゴス・ティーチャー)。ここは何とか、周囲の先生方が同僚性を発揮して、「誰一人もらすこと無く、全員でICT技術をマスターする機会」を設ける必要がある。次に設備面である。5Gに象徴される高速大容量通信に現在では対応できないネットワークインフラ。これを早急に堅牢なネットワーク環境へ改善する必要がある。さらに、学校からもオンライン授業が展開できるパソコン端末、webカメラ、マイクなどのデバイス設備を盤石にする必要がある。
家庭側の課題として、既述したとおり「GIGAスクール構想」による、生徒ひとり1台のタブレット端末が配当されたとして、家庭のネットワーク通信環境の中に、「wifiが無い」家庭があることを考慮すべきだと思う。これに対する対応は、例えば「家庭のネットワーク環境に関する調査」を実施し、「有線LAN」又は「wifi」環境が無い家庭には「wifiルーターの貸与」などの措置が必要だと考えられる。
COVID-19は、非常時の対応であることは間違いない。しかし、この事態を「学びの多様性」あるいは「学び方の多様性」という観点から、オンライン(インタラクティブ・オンライン、オンデマンド)と新対面式授業(従来の学級人数にこだわらない3密を避けるための少人数指導)と従来型授業(これまで通り)と学校PC室(ICT)活用の全てが併用される「新しい学び方(授業形式)」を生み出す絶好の機会ととらえたい。
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