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GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係3 ~365日の紙飛行機から読み取る課題探究~

《読了10分》

 前回分の振り返りを少々。
 新学習指導要領における「主体的・対話的で深い学び」のこと。
 「主体的」という言葉には、新たな(あるいは未知の)課題や問題に対して、何とか知りたい、解決したいというような強い動機づけが起点となって、多少の困難があっても学習行動を継続し続けるような学習行動を示すことが多い。
 「主体的・対話的で深い学び」は「手段」なのですが、教師が実際の授業展開でどのような具体的な手立てを取るべきかについて学習指導要領にも同各教科の解説にも明確に示されていません。理念は伝わっても授業場面での具体的なイメージはあまり伝わってこない気がするのです。手段としての文言だとしても、その輪郭がぼんやりと見えるだけです。

 「主体的・対話的で深い学び」は「手段」ということと、では、具体的な授業展開はどのようになるのかについて、昨今教育学用語として使われることが多くなった「探究」あるいは「課題探究」について述べます。


 唐突ですが、AKB48の「365日の紙飛行機」の歌詞の一部を引用します。

(引用はじめ)
365日の紙飛行機(一部抜粋)
人生は紙飛行機  願い乗せて飛んで行くよ
風の中を力の限り  ただ進むだけ
その距離を競うより どう飛んだか  どこを飛んだのか
それが一番 大切なんだ
さあ 心のままに 365日
(作詞:秋元 康 歌:AKB48)
(引用おわり)

 プロローグからの無駄話として、
 冒頭、AKB48の「365日の紙飛行機」のサビの部分から始めたこの文章に 不安を感じています。
 不安の原因はいくつかあります。
 私はAKB48のファンではありません。(強いて言えばこの曲でセンターポジションを務めた山本彩さんは大好きです)それなのに、わざわざ引用することに、その方面のみなさまに失礼がないだろうか。というのが最初の不安。
 次に、著作権がある歌詞の引用方法について関係団体のHPなどから、法的な制限や罰則を調べ、引用する場合のルールに至るまで調べて、その通り記載してみたものの、この文章が公開された後、しかるべき機関から「記載不適切による著作権法違反容疑」で訴追されないかというのが次の不安。

 若干脇道に逸れました。本稿では、この歌詞の中に新学習指導要領における「探究」「課題探究」の位置づけの関連を見出します。

 
 筆者が勤務する札幌市では、教育委員会として「課題探究的な学習」を推進しています。具体的には「主体的・対話的で深い学び」と「課題探究的な学習」を同等に位置づけています。これにより、具体的な授業作りに役立てることをねらいとしています。基本的な学習の展開例を示し、さらに各教師が「課題探究的な学習」をつくる場合の留意点を「セルフチェック」としてまとめています。このセルフチェックを自分の授業展開に当てはめてみることで、自分の授業がどれだけ「課題探究的な学習」の成立要件を満たしていることを確認できるようになっています。

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 詳細については、過日配付された各教科の「令和3年度 教育課程編成の手引き」を是非ご一読願えると幸いです。筆者も編集スタッフでしたが、今回の手引きの最大のセールスポイントは、教科研究に詳しくなくても日常授業で実践できる「課題探究的な学習展開例」が各学年領域別に記載されています。「働き方改革」の側面からも、即実践できる構成になっています。HPから教科別PDF版がダウンロードできます。
 ここでは、理科編の「課題探究的な学習展開の例」を掲載します。

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 この図は「課題探究的な学習」の展開のプロセスに「理科の見方・考え方」を働かせることで、資質・能力を育むことをイメージした図となっています。
 中心にある「探究のプロセス」の左に「主な見方・考え方」そして、右側に「育まれる資質・能力とその例の概略」を記述しています。この図で伝えたいことは、「課題探究的な学習」が成立することで、はじめて「資質・能力」に相当する「知識・技能」「思考力・表現力・判断力」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点の評価を見取ることができるということを説明しています。
 
 改めて「探究」について検討します。

 少しだけ学術的背景を述べます。
 教育現場において、探究(Inquiry)という言語が使用されることが多くなりました。しかし、「そもそも探究とは何か?」について、概念的な理解と実践する上での押さえが曖昧になっていることが多いと思います。

 Bell(2005)によると、探究に基づく教育(Inquiry-based science education:IBSE)は以下の4つのレベルがあるとされています。


1.知っていることを確認(既成の概念の意味について確かめたり、再定義したりする。断片化された知識を活用できる知識・技能にするための探究)
2.構造化された探究(典型的な探究的な学習の方法を示して、その通り学習を進めると課題解決できるような学び)
3.教師に導かれた探究(教師が生徒に対して、意図的に試行錯誤する機会を設けることで、「2.構造化された探究」で経験した方法を使いながら主体的に学習を進める。
4.自由な探究(課題や問題の発見から、課題解決まで生徒に委ねる学習活動)


 としており、「教師が教師主導の探究から始め、少しずつ学習者に任せる部分を増やしていくことで、自由な探究を実現することが理想です。」とあります。

 中学校授業で探究を考えるとき、私自身の経験で「課題探究的な学習による授業」では、主に「2.構造化された探究」「3.教師に導かれた探究」の2つを用いていると思います。

 特に、中学1年生では「1.知っていることを1つずつ確認」した上で、「2.構造化された探究」を年間で2~3回実施することが多いかもしれません。
 これが、2年生になると、「2.構造化された探究」の割合が少し減って「3.教師に導かれた探究」が増えていくイメージでしょうか。

 3年生では、ほぼ「3.教師に導かれた探究」になります。

 そして、高校の新科目「理数探究基礎」「理数探究」やSSHの取組は、おそらく「3.教師に導かれた探究」をベースにして「4.自由な探究」に向けた授業展開になるのでしょう。もちろん大学研究室は「4.自由な探究」になるのでしょう。

 探究は課題解決のための学習方略の一つですが、特に、高度な探究になると「必ずしも一つの答えではない」ことが出現します。あるいは、最終的には一つの答えに到達したとしても、生徒一人一人が、そこまで辿ってきた道のりは様々だと考えられます。


 これが、「探究の過程を振り返る」ことだと考えます。


 そうだとすると、「探究の過程」はどのように見取るとよいのでしょう。

 次回で、検討してみたいと思います。

 さて、ここまで書いてきて、勘のいい皆様はお気づきかもしれません。
 本記事のタイトルとの関連です。

(引用はじめ)
365日の紙飛行機(一部抜粋)
人生は紙飛行機  願い乗せて飛んで行くよ
風の中を力の限り  ただ進むだけ
その距離を競うより どう飛んだか  どこを飛んだのか
それが一番 大切なんだ
さあ 心のままに 365日
(作詞:秋元 康 歌:AKB48)
(引用おわり)


 本記事では歌詞の3、4行目をメタファーとして扱いました。
 (メタファー1)「その距離を競う」
  ・知識の量の多さ
  ・コンテンツベースの指導方法
  ・知識量測定重視のテスト
  ・暗記中心

 (メタファー2)「どう飛んだか  どこを飛んだのか」
  ・どの「見方・考え方」を働かせたか
  ・どのような学び方をしたか
  ・課題探究的な学習
  ・探究の過程を振り返る
  ・コンピテンシーベースの指導方法

  
 このように記述すると、本来の伸びやかで情緒に満ちた表現と美しい旋律が、一気に興ざめしてしまいました。ですから、このメタファーは失敗です。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。
 

 続きはGIGAスクール構想と新学習指導要領の関係4~課題探究的な授業の考え方~で述べます。


*「探究」に関しては、Daiki Nakamura先生の記事も参考にしました。



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