見出し画像

【大阪市の教員に聴くvol.2】"オンライン授業"の実態と課題、これからのこと。#学校現場の声

緊急事態宣言の発令を受けて、大阪市の小中学校では2021年4月末からオンラインと対面を組み合わせた授業が始まり、それから3週間がたった5月24日に通常授業が再開しました。

回線の不安定さなど環境面の課題に加え、ICTを活用する体制やその進み具合には学校によって差があり、「学校現場は混乱した」と伝えるニュースも目に止まりました。

教室の子も画面の子も…先生苦戦 大阪市オンライン学習
松井大阪市長がオンライン授業終了を発表 24日から対面授業再開「感染者数減っている」

また、大阪市立小学校の現職の校長である久保敬さんが、松井市長に対して「提言書」を送り、それに対する松井市長の反応も話題になっています。

「学校は混乱を極めた」 現職校長、実名で大阪市長を批判
大阪市立木川南小学校・規模校長の「提言」全文

今回、市長および大阪市教育委員会の方針を受けて、大阪市立の学校では、どのようなことが起こっていたのでしょうか。

オンライン授業に取り組むに当たっての準備や、実際の様子、日常の中で感じる学校教育への課題感など、大阪市の公立小学校に勤務するBさん(教員7年目)より、学校現場の声をうかがいました。

ー オンライン授業がスタートすると知って、どのように準備を進めましたか?

大阪市でオンライン授業を導入することは、知人がニュース記事をシェアしてくれて知りました。それから職場でも話題になり、その後、教育委員会から通達が来ました。

校内では学年主任が集まって、これからどう授業を進めていくかを話し合いました。

通知があった翌週の月曜日からオンライン授業を開始する予定だったので、金曜日にすべての時間割を変更して、1時間目から4時間目にタブレットを開いてログインする練習をしました。

ただ、そのときは大阪市の学校で一斉にネットに繋ごうとしていたことも影響していたのか、全校児童がタブレットを使おうとするとネットに繋がりにくくなる状態でした。なので、学年ごとに時間をずらしてタブレットを使いました。

ー実際にオンラインで授業をやってみて、感じたことはありますか?

画像2

オンライン授業の期間中にネットを繋いで双方向の授業をしたのは1回でした。区ごとに週1回、40分間はオンライン授業ができるように割り当てられていて、その時間で行いました。

ただ、オンライン授業でやったことは、ネットに繋がるかの確認と、こちらが名前を呼んで児童に「手をあげる」ボタンを押してもらうくらいです。あとはお互いの顔が見えるかを確認しました。

恐らく多くの方がイメージするオンライン授業は、先生がホワイトボードなどを提示して、児童とやりとりするような感じだと思いますが、実際はそうはなっていませんでした。

ネットに繋げるのが週40分間のみというのもありますし、ネットに繋ぐためのルーターの数が1クラスに10台ほどしかなかったからです。タブレットがあっても、ルーターがないとネット回線がない家庭では繋ぐことができません。なので、タブレットを持ち帰る日は学年ごとに割り振りました。

結局子ども達には、自宅学習の時間に動画を見て、わかったことをプリントに書いてもらうような課題を出しました。昨年は突然の休校でオンライン授業の準備が整っていなかったのでプリント学習が中心でしたが、今回もほとんど変わりませんでした。

画像3

参考:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2104/28/news041.html 

1日の流れとしては、1,2時間目は自宅学習で、3時間目に児童が登校してきます。そしたらすぐに課題として出していた大量のプリントを回収して、答え合わせをする暇もなく新しい課題を渡します。時間がないので、課題の解説は10分くらいで終わらせて、そのまますぐに給食の時間になります。

そのときにルーターを回収して数を確認し、職員室に持っていって次の学年に渡す、という感じです。ルーターを家に忘れてくる子もいて、そうなるともうバタバタです。そして、給食を食べたらすぐに下校の時間になります。

課題の回収と、次の日の午前に自宅でやる課題の配布はしなければいけないので、短い時間にその作業に追われたような感じでした。本当は、もっと子ども達と過ごす時間を大切にしたいと思っているのですが、そのときは全体的に余裕がありませんでした。

もちろん現場でもっと工夫できたところもあったと思いますが、子ども達との時間よりも、ただ目の前のことをこなすことに追われてしまった感じが、もどかしいなと思います。

今回、松井市長の声で初めてタブレットを使わざるを得ない状況になりました。オンライン授業をするときにどうなるのかが、実際にやってみてわかったので、それ自体は価値のあることだったと思います。けれど、ルーターの数が足りなかったり、ネット回線が安定していなかったりと、まだオンライン授業に対応できない学校現場もあります。

学びの保障をするために、もう少しやりようはあったのではないかなと思います。私の勤務校ではタブレットはあってもルーターの数が足りず、オンライン授業ができる時間の制限もあるので、結局学びの保障はされていなかったと思います。

ー 子ども達からは、どのような反応がありましたか?

子ども達は自分専用のタブレットを使えることに新鮮味があったようで、ウキウキしていましたね。

ただ、ネットが上手く繋がらなかったりとか、動画を見て課題に取り組むのは自分の力では難しい子達が結構いました。塾に通っていたり、ご家庭でのサポートがあって取り組める子もいましたが、そうじゃない子の方が多くいます。

子ども達が内容を理解していなまま課題を学校に持ってきても、プリント配布やルーターのやりとりだけでバタバタで、こちらも解説したり一人ひとりをフォローする余裕や時間がつくれませんでした。

中にはプリントは適当に終わらせて、登校までの時間はゲームをして過ごす子もいました。学校が通常通りに戻ると聞いて、休み時間に友達と遊べることを喜ぶ児童もいましたが、一方でゲームができなくなるという声もありました。

子ども達の生活リズムは結構崩れてしまい、取り戻すのは大変そうです。今は通常授業に戻りましたが、登校してくる時間は全体的に遅くなっていますね。

ー 今回のことに限らず、大阪市の学校教育について、感じていることはありますか?

画像4

大阪市では、過去に「学力テストの成績を、学校予算やボーナスに反映させる」という話が出たことがありました。

以前、議員をしている知人から「先生って、学力を上げることに本気になってないでしょ?民間企業は、数字が上がらないことをお客さんのせいにすることはない。でも、先生は学力が上がらなかったら、生徒のやる気がないから、と言うことがある。学力を上げるために毎日テストをする必要はないけど、一つの指標として問題を解く力を向上させるのは必要なことなんじゃないの?」と言われたことがあります。

そういう話を聞くと、「学校現場にも色々できることはあるよな」と思ったりもします。学校として、変わっていかないといけないこともあるんです。

今回のオンライン授業では、プリント課題を渡しても自分だけでは理解できない、取り組めない子がいるわけです。でも、その状態でも、教員はどの子に対しても同じ内容のプリント課題を全員に同じ量だけ渡す。

それに対して、「(課題の量や内容について)ちょっと考えた方がいいんじゃないの?」という声が上がることはありません。もしかしたら、先生によっては子どもの理解度によって内容や量を変えている人もいるかもしれませんが、私の周りにはいませんでした。

授業を前に進めないといけないから、しかたなく、先生が作ったノートを板書の代わりに写してくる課題を渡したりもしましたが、当然、子ども達にとっては面白くないですよね。

隣のクラスの先生は、通常授業が再開して、早速テストをしていました。テスト前に教科書の内容を簡単に説明して、そのあとテストをするんです。職員室に戻ってくると、子ども達のせいにしているわけではありませんが、「全然ダメだったわ〜」と言っていました。

今のままだと終わらないので無理矢理にでも進めないといけないという状況は確かにあり、それは分かるのですが、私には今テストをする勇気がないんです。子ども達の学びが蔑ろにされていると感じているので、なんとか時間をやりくりしてもう一回学び直せるようにしたいなと思っています。

ゆっくり丁寧に進めていくと、やっぱり子ども達は、「面白かった」「これなら社会が好きになるかも」と言っています。授業は遅れていますが、自分たちがやらせてきた学習が子ども達にどう見えているのかを、僕たち教師は振り返っていかないといけないなと思います。

今回オンライン授業を実施したことで、教員にとって「子ども達の学びや授業がどういうものか」という価値観が出たと思うんですよね。

「とりあえずやらせておこう」「とりあえず課題を出しておこう」という気持ちが出てしまった部分もあったんじゃないかなと思っています。それは去年の休校のときから感じていました。そういう文化が根付いてしまっているような気がします。

子ども達も「やればいいんでしょ」と思ってしまっている感じがあって、本当は、「学ぶことはもっと楽しい」と伝えたいと思っています。失敗したっていいし、昨日よりできるようになれば花丸だと伝えていくのが僕らの仕事だと思うのです。

画像4

子ども達が楽しみながら学ぶことを第一に考えたとき、僕は習熟度別クラスについても疑問に思う部分があります。

算数は習熟度別に分かれて授業をするので、授業のやり方はそれぞれの教員に任されているのですが、宿題は一律なんですよね。なんのために分けたのか疑問に持ってしまいますし、学習者中心ではないなと感じます。

僕が担当しているクラスは、算数があまり得意ではない児童が多いのですが、子ども達は魂が抜けたように教室に来ます。やる気がある子もいますが、「自分は算数ができないんだ」と思っている子は、前向きに授業に取り組む気持ちが出てきにくいなと感じます。

その中で、別のクラスの子たちと同じ宿題を出すのは、子どもをさらに追い詰めることになるのではないかと思います。もちろん僕自身が、子どものやる気を出せるように授業を工夫していく必要はあります。

ただ一方で、子どもによって宿題を変えたり、習熟度に分けて学ぶのではなく色んな子がいる中に混ざって先生や友達からサポートが受けられたりする方が、その子にとっては幸せなんじゃないかなと思うこともあります。

“大阪市が”というより、学校現場では、みんなと一律にしてとりあえず進めていくところがあるので、そこは変えていかなければいけないなと思います。

ー Bさん、ありがとうございました。


School Voice Project は、学校現場の声を「見える化」し、対話の文化を生み出すプラットフォームです。今後も、現場で働く教職員の方の声をお届けします。

お知らせ

6月13日(日)13:00~15:00に、トークイベント「今のままで大丈夫?大阪のWEBアンケートサイト「フキダシ」は、現在ユーザー登録を受け付けています。教員の方だけではなく、事務職員や用務員、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、ICT支援員の方など、学校現場で働く様々な立場・職種の方が対象です。ぜひご登録ください。

↓ ユーザー登録はこちら ↓

School Voice Project 公式SNSはこちら👇

✨\ Follow me /✨
💬Twitter ✌️Facebook
🌈Instagram 🍀公式LINE

(文:建石尚子)

いいなと思ったら応援しよう!