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「今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる~統合失調症の私から世界はこう見えた~」 Himaco 著 を読んで

感想文集―統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.11


学校図書室に置いてほしいなあ。
中高生に読んでほしい。
実はHimacoさんの前作からそう思っていました。本作を読んでさらにそう思いました。

統合失調症は100余人に1人、中学校なら1学年に1人がいつかは発症する、多い疾患です。発症のピークは10代後半から20代にあります。
若い作者が統合失調症との暮らしを描き、苦悩を経て生の肯定を伝えるこの本を、生徒たちや周囲の方々に読んでもらいたい。
もしやがて発症したならば、本書は道しるべとなるでしょう。
発症しなかった人にも、統合失調症を正しく知ってほしいのです。

分かりやすい言葉と、作者の思いがそのまま宿る表情豊かな絵。
読む人が苦しくならないように、この病を知らない人にも想像してもらいやすいように心がけたと作者は述べています。
ときには深刻な場面がありますが、そんな心遣いに守られて読み進めることができます。

もし統合失調症について知る人が増えたなら
病の早期発見・早期治療につながるかもしれない
患者本人や その周りの人が
この病を患った現実を 否定せずに済むかもしれない

伝えたいこと編

「病を患った現実を否定する」とは、この病に関わる人なら誰もが知る落とし穴です。
知識のなさ、病識を得る難しさ、医療へのハードル、世間の無理解、自分自身に宿る偏見…そんな幾つものシャベルで掘られた、孤立と絶望につながる落とし穴。
もし統合失調症について知る人が増えたなら、そのぶん穴は埋まります。
なかでも重要なのは、病をもつ本人のありのままの思いを知ること。
この本はそのための確かな一歩となるに違いありません。

もちろん、統合失調症をもつ人やその周囲、支援者にも本書をお勧めします。
発売直後から統合失調症をもつ人々の共感の声がwebに上がっています。症状も経過も人それぞれの中、ひまこさんの心の動きに多くの人が自身を重ねて共鳴している。
美しい多面体のようなこの本のどこかに誰かの共鳴点がある。

この共鳴が、まだ統合失調症を知らない人たちにも届きますように。


~以下は各章に沿った覚書です~

<発症編>
幼少時の記憶に続いて、発症の頃の考えや出来事が内側から丁寧に描かれています。
それは本人にとって全て現実であり、教科書的な客観的説明であらわされるようなものではないのです。
妄想から覚めたときの心の動きは、続く「発症後」も含め、この病にかかった人、周囲の人、そして医療関係者にもぜひ読んでもらいたいところです。

<発症した後で編>
就職してつまずいてからいろいろな支援を利用した経験が描かれ、支援利用方法の具体的な参考にもなる章です。
「発症後」に坂道を歩くところから「就労移行」までを追ううち、気づいたことがあります。
ひまこさんは、つまずいてもそのつど自分の方法で小さな行動を起こし、道を開いている。
そうして出会った優しさに支えられている。
そこにあるのは幸運ではなく希望です。
ただ、出会ったのは優しさばかりではなかったらしいことも、後の<伝えたいこと編>からうかがえます。
閑話「お薬はメガネ」。最後の一言に服薬の意味の本質を見ました。こんなに美しく表現できるのかと胸を打たれます。

<入院編>
重いテーマが正面から取り上げられています。
おそらく作者にとってもまだ生々しい、けれども生き方の軌道修正につながった重要な出来事。
最後に、長年ひとりで闘ってきたこの危機を遠ざけるための「練習」が示唆されます。
こうして描いたことがひとつの区切りになって、ひまこさんが重い荷物をおろせますようにと陰ながら願います。

<受け入れる編>
はじめに、これまでの長い葛藤が数ページにぎゅっと凝縮されて語られます。
「何も恥ずかしいことではありません」と言ったあと、ひまこさんが上げた顔の美しさ。
恥の感覚は気づかないうちに心を深く蝕みます。この言葉もまた、たくさんの人に届きますように。
そして、たどり着いた思いがページごとに溢れるようにつづられます。
私は山並みの絵がとても好きです。終盤の「それでも生きていく」に、その山並みとともに思いが連なってゆきます。

<伝えたいこと編>
支援者と呼ばれる人たちには必読です。
何かを書くとき、その手前には越えなければならない山がありますが、ここにはとりわけ高い山があったのでは。
それでも言わねばと作者が決心した背景には、嫌な経験の数々があったにちがいありません。
また全編の最後「私は私」には、前作から一貫して作者が強調している思いが語られています。

~ひまこさんの愛犬ゆずちゃんに この拙い感想文を捧げます~


(追記)
作者の Himacoさんがこの記事についてツイートしてくださいました。
ありがとうございます。


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