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「乗り越えられない統合失調症を乗り越えるために必要だった2つのこと」明読斎著 を読んで
統合失調症関連作品感想文集ーno.20
「乗り越えられない統合失調症を乗り越えるために必要だった2つのこと」 明読斎著
病気を治すためのとっかかりは全く見えませんでしたが、自分自身を直すためのとっかかりは数多く見えました。ですから、病気を治すよりもまずは自分自身を直すことを考えました。
「治す」よりも「直す」。
できないこととできることを見極めて発想を変え、「乗り越えられない統合失調症を乗り越え」た著者による渾身の書です。
私は自分らしくあることと寛解は関係があると考えます
著者が目指した方向は「自分らしくあること」
それまでの人生からの大きな転換でした。
自分らしくあるだけなら、ありのままでいいのだから簡単じゃないか?と一般には思われるかもしれません。
しかし、自分らしさがなかったり、自分らしさを自ら殺した歴史があったり、もはや自分らしさとは何なのか見当もつかない状態からそれをめざすのは、ゴールのない長い模索です。
私はこれまで、統合失調症をもつ人たちから『病気になる前よりも自分は自分らしくなった』という述懐を幾度か聞いたことがあります。
人それぞれで、それは逆だと言う人も多いでしょう。
しかしもともと自分らしさがなかった、あるいは見失ってきた人がどん底から這い上がる道は、自分らしさを取り戻す道と並行し隣り合っているのかもしれない。
さらにそれは統合失調症に限らず、人が何かから回復することの一つの本質かもしれないと思います。
道を変える度に人生の精度は確実に上がります。
著者は統合失調症を大きな寄り道に例えています。
寄り道から学ぶたび人生の精度が上がったと。
これからも寄り道に入り込むかもしれない。そのときも同じようにすればよい。やはり人生の精度は上がるだろうと。
私には『もしこれまでもっとまっすぐ進むことができていたなら、もっと遠くまで行けたのではないか』と悔しく感じていた時期がありました。
今思えば“遠く”というのはただの世俗的な尺度だったかもしれません。
距離ではなく精度。
ここでも著者は重要な転換を示唆してくれます。
どこを目指すかは人によって違います。しかし、こんな道があるという道しるべが一つあるだけでも、心が大分救われます。
統合失調症からの回復について、具体的な方法以上に「どこを目指すか」が深く考察された作品です。