「香りの新体験」に1500人が来場。なぜ“嗅覚のDX”が集客を生み出したのか【KAORIUM導入インタビュー:資生堂 fibona】
香りを言葉で表すのは難しいことから、五感の中でもっとも未知な領域とされてきた「嗅覚」。そんな嗅覚のデジタル化に取り組むベンチャー「セントマティック」が開発するのは、人の香りの感じ方と膨大な数の言語表現を学習した世界初のAIシステム「 KAORIUM (カオリウム)」です。「スッキリ」「透明感」など香りの印象を分かりやすく言語化し、言葉を頼りに、その人にとって「もっとも好みの香り」を導き出すお手伝いをします。
KAORIUMの体験動画はこちら
そんなKAORIUMを、資生堂が開発した香りに合わせてカスタマイズ。2022年7月14日から3ヵ月間にわたり、横浜・みなとみらいにある資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK・エスパーク)の1Fに設置され、AIと一緒に好みの香りを探るイベント「 資生堂 fibona × セントマティックExperience KAORIUM 2022 」が開催されました。当初は300人の来場を目標にしていたところ、予想を遥かに越える1500名以上の来場がありました。
今回は、多くの集客につながった理由を探るべく、KAORIUMの導入をご担当いただいた資生堂のブランド価値開発研究所に所属し、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」のメンバーでもある幸島柚里(こうしま ゆうり)さん に、KAORIUMの導入経緯や反響について伺ってみました。
実体験レポ:「新しい私」が見つかる!AIと香り探し
KAORIUMが設置されたのは、横浜・みなとみらいに位置する資生堂の研究施設「S/PARK」。“美のひらめきと出会う場所”がテーマの一般開放エリアです。
1階には、美味しく健康的な食事を楽しめる「S/PARK Cafe」、資生堂のオリジナルプログラムを体感できる「S/PARK Studio」、パーソナライズスキンケアサービスなどの化粧体験を提供する「S/PARK Beauty Bar」があります。
2階には、研究所の最先端技術に触れることができる体験型ミュージアム「S/PARK Museum」があり、美容に興味がある方なら、一度は訪れてみたい施設かもしれません。
今回は、資生堂が開発した香りに合わせてカスタマイズされた香り体験デバイス「KAORIUM」を1階に設置。20種類の資生堂が開発した香りから、香りを言語化するAIを活用して、もっとも好きな香りを選び出すというものです。
どんな体験ができるのか筆者が試してみました。まずは、ランダムに選ばれた4つの香りを嗅ぎ、その中からもっとも好きな香りを選びます。
すると、選んだ香りが「ワイルド」「清涼感のある」「都会的な」といったように言語化されるので、その中から自分のイメージに近い言葉を選びます。
言葉を選ぶと、今度は、その言葉のイメージに近い香りがハイライトされるので、さらにその言葉のイメージにあった香りを選んでいくという手順。これを何度か繰り返すと、最終的にもっとも自分好みの香りを導き出すことができます。
AIによれば、筆者が求めているのは「瞬く間に過ぎ去る季節のような香り」なのだとか。これだけでは正直ピンとこないのですが、選んだ香りの詳細を見ると、自分好みの香りが理解できます。
柑橘香るアーバンリゾート
ジンジャー香るフローラル
夏の夜のオレンジクーラー
3つの香りに共通するキーワードは、「リフレッシュ」「清涼感のある」「清潔な」。それぞれの香りを構成する要素も知ることができるので、香水をはじめ、香りが付いた化粧品やシャンプーなどを購入する際に役立ちそうです。
KAORIUMを通じて、ぼんやりしていた自分の嗅覚が具現化され、「やっぱり」という納得感がありました。普段からシトラスなど爽やかな香りが好きだという自覚があったからです。同時に新たな発見もありました。好みの香りの成分にウッディ(Woody)とパチュリ(Patchouli)が入っていて、これは自覚していませんでした。
体験を通じて、香りってこんなにも奥が深いのだと知りました。複数の成分を混ぜることで繊細ないい香りをつくり出しているのですね。
香りの認知を体験として届けるKAORIUM
続いて、資生堂のブランド価値開発研究所に所属し、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」のメンバーでもある幸島さんに、インタビューしました。
ーー幸島さんは、普段どのような研究をされていますか?
製品の香料の開発、及び香りの応用研究をしています。化粧品にはスキンケア、サンケア、メイクアップなどがありますが、その中でも、特にサンケアブランドの香りの開発がメインです。香りの応用研究では、お客さまがどのように香りをとらえているのかに着目して様々なことに取り組んでいます。その研究の一環で、KAORIUMの導入にいたりました。
ーーお客さまに香りを伝える方法として、KAORIUMにどんなメリットを感じられましたか?
お客さまにとって、わかりやすく魅力的な香りの情報とは何なのか、香りの価値をどう伝えるべきなのかを考えるなかでKAORIUMを知り、体験価値としてすばらしいなと思いました。KAORIUMは、香りの認知を体験として届ける。それは、私たちも挑戦したいと思っていたことでした。香りをつくるのではなく、認知にフォーカスしている点がユニークで、ご一緒したらおもしろい価値を提供できるのではと考えました。
ーー幸島さんもKAORIUMを体験されたのですよね。
はい、私が求める香りは「紅に染まる夕空」で、独特な情景表現だなと思いました。キーワードでいうと「みずみずしい」「繊細な」でした。嗅覚はデジタル化がもっとも難しいといわれますが、KAORIUMを通して、自分が求める香りを心地よくひもといてくれるような感覚を覚えました。言葉が持つパワフルな力も感じましたね。
1500名以上が来場。多様化する香りの嗜好を実感
ーーS/PARKでは、2022年7月14日~10月14日までKAORIUMを設置していましたが、反響はどうでしたか?
私たちの想像を遥かに超えて、とてもポジティブな反応をいただきました。立地を踏まえ、3ヵ月で300人の来場を目標にしていたところ、1500人を超える方に来場いただきました。休日は2〜3時間の待ち時間が発生してしまったのですが、「来てよかった」「楽しかった」と言ってくださる方が多く、安心しました。
来場者層は20〜30代の女性がもっとも多く、複数名で体験された方は、お互いの結果を見比べながら楽しんでいました。製品をレコメンドするものではないので、そこは懸念でしたが、好みの香りの素材を知ることができる点を魅力に感じてくださる方が多かったようです。資生堂は一つひとつ丁寧に香りをつくっているので、そのようなこだわりを伝えることで、お客さまに喜んでいただけるのかなというヒントを得られました。
ーー取り組みを通じて、「香りを言語化する価値」を改めて感じられましたか?
たくさんのお客さまに対応するなかで、お客さまの求める香りがどんどんクリアになっていく実感がありました。言葉は明確なので、その力って大きいなと。
お客さまの香りの嗜好性が多様化していることも再確認できました。少し前までは、例えば「モテ」というフレーズで表現されるような、王道の香りがわかりやすく売れていたと思います。今でもそれらは人気だと思いますが、最近は「私が好きな香りはこれ」という感じで、個人の好みで香りを選ぶようになってきた傾向があるかなと。
男性は爽やかな香り、女性はフローラルな香りを好むなど、世の中には香りの好みに対するバイアスも存在しているように感じることもありますが、KAORIUMを通じて、甘い香りを好む男性が案外多いなど、性別、年代関係なく、それぞれが香りの好みを持っていると改めて感じました。
一方で、そういった発見をどうビジネスに活かすかは難しいところです。香りがメインの価値となる香水の場合、KAORIUMをビジネスに生かしやすいですが、当社が扱う化粧品では伝え方が難しいと感じるときがあります。KAORIUMを用いることで、お客さまにしっくりくる言葉で香りを伝えられるのはメリットだと感じました。
体験された方から「こういう香りの化粧品を買いたい」という声も多く頂いたので、今回の取り組みをいかし、香りのデータを活用して商品の購買につなげる仕組みを将来的に作ることができたら素敵だと感じました。
ーー今後のKAORIUMとのコラボレーションの可能性や期待を聞かせてください。
今回の取り組みで1500人を超えるデータを取得でき、香りのインパクト、重要性も再確認できました。このデータをどうビジネス的な価値につなげていくかが今後のチャレンジですが、セントマティックさんとのKAORIUMを活用した連携の中で、その手法を見つけていけたらいいですね。
KAORIUMその他の展開とご相談について
今回のイベント「 資生堂 fibona × セントマティックExperience KAORIUM 2022 」で回収されたデータをもとに、KAORIUMを活用したfibonaとの連携は続きます。今後の展開もシェアしていきたいと思います。
セントマティックでは、この他にも KAORIUMを活用した飲食店向けメニューツール「 KAORIUM for Sake 」や、嗅覚の感性を育む小学校向け教育プログラム「 カオリウム実験教室 」など、さまざまな業界に対応するサービスを提供しています。「香り」にまつわる新たな体験価値の創出をお考えの方は、ぜひ、こちら からお気軽にお問い合わせください。
【オープンイノベーションプログラム「fibona」】
資生堂の研究開発拠点「資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK・エスパーク)」は都市型オープンラボとして2019年4月に本格稼働。オープンスペースとなる低層階を中心としたお客さまと研究員の交流、国内外の外部研究機関との連携、研究員の多様な働き方などによる“多様な知と人の融合”をコンセプトとしてイノベーション創出に向けた活動が推進されています。S/PARKのコンセプトを象徴する活動である「fibona」は、外部のユニークな発想やテクノロジーと、資生堂が持つ美やサイエンスの知見を融合し、世界をワクワクさせる新たな価値の創造に挑戦しています。
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