社会的共通資本を数理経済学から探る(第5回 地球温暖化)
1 はじめに
1.1 概要
宇沢弘文は、社会的共通資本の理論を構築する際、自然言語によって制度学派的な分析を積み重ねる一方で、数理経済学によるモデル化も試みている。モデル化の基本的なアイデアは、「自然環境のような価格を付けられないものにどのように価格的価値判断を行うか」という点にある。宇沢はこの問題に、動学的最適化におけるシャドウ・プライスの技法を用いてアプローチしている。シャドウ・プライスは解析学におけるラグランジュ乗数法の応用である。
このレクチャーでは、高校数学を前提として、ラグランジュ乗数法から出発し、動学的最適化理論を解説した上で、宇沢の社会的共通資本の理論の数理論文を読み解く。(社会的共通資本と未来寄附研究部門で社会的共通資本を数理経済学から探るための勉強会を実施、本記事はその様子をまとめた内容である。)
1.2 予定
ラグランジュの未定乗数法と帰属価格
• 2023.4.30 14:00-キューン・タッカー条件
• 2023.5.20 15:00-動的最適化法
• 2023.6.17 15:00-ラムゼー最適消費モデルと位相図
• 2023.9.17 15:00-地球温暖化
• 2024.3.17 15:00-鞍点解
• 2024.5.19 15:00-漁業コモンズ
森林コモンズ
農業コモンズ
1.3 まとめ方針
本会の特徴として、「脱線」がある。よく「脱線」が起こる。「この手法は経済学ではよくでてくるけど、物理学でいうと何に対応するんだろう?」「物理学のこの概念を経済学に応用しようとしたらどうなるのかな?」な
ど。こうした「脱線」は宇沢の理論を理解し、議論していく上で、非常に示唆に富むものだ。
その「脱線」に関しては、適宜注などで可能な範囲でメモを記載していく。
2 第5回 地球温暖化
第 3 回・第 4 回では離散時間における動的最適化問題と連続時間における動的最適化問題を学んだ。今回はその具体例として、宇沢が「経済解析」で議論した地球温暖化のモデルを紹介する。
今日の社会において人々は多くの財を消費しているわけだが、そうした財の生産・流通過程では大量の温室効果ガスが副産物として発生している。そして、その温室効果ガスは地球温暖化を引き起こし、将来的に(今日すでに)異常気象や大規模災害として我々を苦しめることになる。このように、地球温暖化には「今日たくさん消費して生活の満足度を高めると、その影で排出される温室効果ガスによって将来の生活が苦しくなる」という構造が見て取れる。宇沢は「経済解析」においてこの構造を動的最適化問題として記述して、地球温暖化の観点で持続可能な社会を実現するためにはどのような制度設計が必要なのかを議論した。今回は、その導入部分を見ていこう。
※続き(全文)、詳細は以下ファイルをご覧ください。