社会的共通資本を数理経済学から探る(第1回 ラグランジュ未定乗数法)
1 はじめに
1.1 概要
宇沢弘文は、社会的共通資本の理論を構築する際、自然言語によって制度学派的な分析を積み重ねる一方で、数理経済学によるモデル化も試みている。モデル化の基本的なアイデアは、「自然環境のような価格を付けられないものにどのように価格的価値判断を行うか」という点にある。宇沢はこの問題に、動学的最適化におけるシャドウ・プライスの技法を用いてアプローチしている。シャドウ・プライスは解析学におけるラグランジュ乗数法の応用である。
このレクチャーでは、高校数学を前提として、ラグランジュ乗数法から出発し、動学的最適化理論を解説した上で、宇沢の社会的共通資本の理論の数理論文を読み解く。(社会的共通資本と未来寄附研究部門で社会的共通資本を数理経済学から探るための勉強会を実施、本記事はその様子をまとめた内容である。)
1.2 予定
ラグランジュの未定乗数法と帰属価格
• 2023.4.30 14:00-キューン・タッカー条件
• 2023.5.20 15:00-動的最適化法
• 2023.6.17 15:00-ラムゼー最適消費モデルと位相図
• 2023.9.17 15:00-地球温暖化
• 2024.3.17 15:00-鞍点解
• 2024.5.19 15:00-漁業コモンズ
森林コモンズ
農業コモンズ
1.3 まとめ方針
本会の特徴として、「脱線」がある。よく「脱線」が起こる。「この手法は経済学ではよくでてくるけど、物理学でいうと何に対応するんだろう?」「物理学のこの概念を経済学に応用しようとしたらどうなるのかな?」な
ど。こうした「脱線」は宇沢の理論を理解し、議論していく上で、非常に示唆に富むものだ。
その「脱線」に関しては、適宜注などで可能な範囲でメモを記載していく。
2 第1回 ラグランジュの未定乗数法と帰属価格
本講座は宇沢弘文の社会的共通資本の数理モデルを理解することを目的とする。宇沢のモデルにおいて、「帰属価格」(“imputed price”, “shadow price”) *が重要な道具となってくる。その帰属価格の概念は、ラグランジュの未定
乗数法と同一である。そこで、第 1 回はラグランジュの未定乗数法を用いた制約つき最適化問題の解き方を学習した上で、帰属価格との関連も議論する。
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